雪蛍
雪が降る前に君に会いたい
まぶた閉じるたび 君が泣いて
暗闇で蛍みたい
光ったら いつか消えた
< 「雪蛍」 Plastic Tree >
真冬の真夜中の散歩が好き。
月のキレイな寒空の下、大切な人と手をつないで歩くのが好き。
空気は痛いくらい冷たくて、でもつないだ手はあったかくて。
空気も、心も、体も、冷たく澄んでいく感じが好き。
アナタと歩くこの一瞬が、すごく好き。
カカシ先生が長期任務に出て3ヵ月と二週間。
去年は二人手をつないで歩いたこの道を、今日は一人で歩く。ポケットに手をつっこんで。
細い雨が降り出していた。
―もうそろそろ戻る頃だろうか・・・。
期間は3ヵ月だと聞いていた。
「もう一人寝には厭きてしまいましたよ・・・カカシ先生・・・。」
「季節も変わってしまいました。」
「今年の初雪は一緒に見れないのかなぁ・・・。」
暗い空を見上げながら、独り言つ。澄んだ空気の中に白い息がふわりと浮く。
あの人がオレを置いていくわけない。きっとニコニコ笑って帰って来る。少し遅れているだけだ。連絡が出来ない状況なんてよくある。
無理矢理言い聞かせても、不安は自然と募るもので。
笑顔で帰りを待つつもりだったのに。
常に覚悟はしているつもりだったのに。
一日ごとに悪い考えに取り憑かれてしまう。
雨が気分を更に暗く深い場所へ運んで行く。
待つしか出来ない身は、不安で不安で仕方なく・・・。
―あ、ヤバイ。
じわりと浮かんだ覚えのある感覚に、慌てて目を擦る。
寒さも手伝って、ついでに鼻水まで出て来た。
こんな弱弱しい自分は嫌いだ。任務先のカカシはきっと、もっと、心も体も苦しいはず。自分は笑って元気でいなければ、と思うのに・・・。
「あぁ、もう・・・。」
慌てて拭う物を探し始めた時、よく知った懐かしい気配を感じた。
「あったかい飲み物でもいかがですか?」
優しく微笑みながら、「泣き虫さん」と額に口付けをくれた。
「ただいま、イルカ先生。」
「おかえり、なさい・・・。」
声が震える。涙が溢れる。喜びに体が揺れる。あぁ、神様・・・。
「ありが、とう・・・。無事に・・・帰って下さって、ありがとうございます。」
感謝します。この人を、愛しい人を、再びオレの許に。
祈るように空を見上げると、雨はいつの間にか雪へと変わっていた。
粉雪が舞う。
「こちらこそ、待っててくれてありがとう。」
遅くなってごめんね、と頬に手を添えられ、優しく抱き寄せられた。
「ねぇ、イルカ先生。泣き顔も好きだけど、笑顔の方がもっと好き。ね、笑って?」
強請るように耳元で囁かれ、クスリと笑いながら目を合わせた。
無理矢理作った泣き笑いの顔は、きっと物凄くブサイクだったと思う。鼻水付だし。
でも、カカシ先生は嬉しそうに笑った。ほんとにキレイな笑顔だった。
「任務から戻って、好きな人を抱きしめて、おかえりって言ってもらって、可愛い笑顔も見れて。すごく幸せ。」
チュっと、触れるだけのキスを何度も繰り返しながら、そう言った。
粉雪の舞う中、しばらく抱き合って啄ばむ様なキスを繰り返した。お互いの体温を、存在を確かめ合うかのように。
「降って来たねぇ・・・積もるかな。」
「積もるといいですね。今年初雪ですよ。一緒に見れて良かった・・・。」
「嬉しい。オレも一緒に見れて嬉しいです。
ね、イルカ先生。雪にアナタの黒い髪が映えてすごくキレイ。潤んだ目もすごくキレイ。」
「・・・相変わらず恥ずかしいこと平気で口にしますね・・・・・・。」
「だって本当のことだし。赤くなった頬もすごくキレイ。可愛い。」
「・・・アナタの方がキレイですよ。雪に銀髪が映えて。」
「ふふ。可愛いなぁ。・・・ね、家に帰ったらあっためてくれる?オレ寒いの苦手なんだよね。」
「〜〜〜!・・・っとに!・・・オレのことも温めてもらいますからね!」
熱を持った声で耳元で囁かれ、照れ隠しに少し歩調を速めた。
きつめの口調で返事をしながら、横目で睨む。
カカシ先生は幸せそうに微笑むだけだった。
つないだ手が熱い。
今年も同じ道を、手をつないで歩く。
初雪の降る寒空の下、隣にいる体温を感じながら歩く。
雪が降る前にアナタに逢えて良かった。
無事に戻ってくれて良かった。
当たり前のように隣にいるアナタに、幸せを感じながら。
次の冬も、その次の冬も、アナタとこの道を手をつないで歩こう。
おわり
おまけ→イルカ先生宅にて。
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大好きなバンドの曲を聴いてて、妄想しました。
幸せな歌じゃないんですけど、大好きな曲なんですvvv
夏冬問わず、夜中に近所を徘徊することがわりとあって、その最中にふと浮かんだ。
これは年賀状を出しに行ってる時のこと。年明けてから出しました・・・(笑)。
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
'06/1/11 葉月