体液

 

 

 

 

 

「人を好きになると体液の交換をしたくなるそうですよ。」

酒を片手に頬を染め、その人はうっすら笑みを浮かべながらそう言った。

「ねぇ、一度だけでいいんです。オレと・・・体液の交換してもらえませんか?カカシ先生・・・。」

 

 

 

 

 

その日はいつもと様子が違っていた。

よく行く居酒屋で散散飲み、まだまだ足りない、と梯子酒をした。

二人共翌日は運良く休みだったので、今日は飲み明かそう!と盛り上がってはいたのだが。

三軒目を過ぎた頃、尋常でないイルカ先生の飲みっぷりにもうお開きにしよう、と提案した。

するとイルカ先生は、珍しいお酒が手に入ったから家に来ませんか、と言った。

心做しか悲しげな表情のイルカ先生の誘いに頷いた。

 

 

 

 

 

珍しい酒とは異国の物らしく、木の葉の里では見かけない酒だった。

誰かからの土産らしい。

口当たりが良く、オレもイルカ先生も酌を進めた。

その酒を半分ほど空けたところでふと沈黙が訪れ、酒のせいで頬を上気させたイルカ先生は、一度こちらを見た後黙って俯いた。

今日の飲みっぷりからして、仕事かプライベートで何かあったのだろう、と勝手な推測をしていた。

きっと自棄酒でもしたい気分だったんだろう。きっとオレに聞いて欲しいことがあったんだろう。

全部オレに話してくれたらいいのに、と思った。

だって、好きな人のことは何でも知りたいって思う。

イルカ先生が好きだから。ずっとずっと好きだったから。

焦ってはいなかった。焦ってはダメだと自分に言い聞かせていた。

自分の気持ちに気付いた時点で長い恋になる覚悟はしていた。

時間をかけ、ゆっくり距離を近付けて、ここまで来た。

こんな風に普段見せない姿を曝け出してくれるなんて、自分を信頼してくれてる証拠だと思って嬉しい・・・。

長い沈黙。

オレはイルカ先生が言葉を発するまで静かに待った。

 

 

 

 

 

漸く口を開いたイルカ先生は、やけにはっきりした口調で言った。

『人を好きになると体液の交換をしたくなるそうですよ。』

 

 

 

 

 

「お願いです。一度だけでいいんです。好きです、好きなんです・・・!」

そう言いながらイルカ先生はオレの唇に自分のそれを合わせた。

「待っ、イルカ先生、酔って」

「酔ってなんていませんっ!」

オレの言葉はイルカ先生の叫びで掻き消された。

思いも寄らぬイルカ先生の行動に、ただただ狼狽えた。

涙を浮かべながらイルカ先生は必死で口付けを続けた。

「好きなんです、一度だけ・・・お願い・・・。」

と何度も繰り返しながら。

理性の糸は切れてしまった。

酒の力も手伝って、プツリと呆気なく。

恋焦がれた相手からのキスに脳内が沸騰しそうだった。

「イルカ先生、オレは・・・。」

「何も言わないで。」

キスの合間に口を開こうとすると、イルカ先生は唇でそれを押さえ込んだ。

自分も同じ気持ちであることを伝えたかったのに、目の前にある甘美な誘惑に勝てず、想いを伝えないまま行為を進める。

徐徐に深いキスを交わすと、お互いの体温が上昇していくのがわかった。

「は・・・っ、カカシせんせ・・・。」

擦れた声でオレの名を呼ぶ愛しい人。

夢で何度も抱いた体が現実に腕の中にあった。

オレは余裕を無くし、イルカ先生の体を乱暴に掻き抱いた。

体を動かしたオレの腕が卓袱台に触れ、倒れたコップから酒が流れ出るのが視界に入った。

 

 

 

 

 

オレとイルカ先生は、抱き合ってキスを繰り返しながら寝室に場所を移した。

ベッドの上でお互いの服を脱がせ合いながら、何度も何度もキスをした。

二人の口から出るのは吐息と喘ぎだけ。

何も語ることなく互いの体を貪った。

「ぅあ・・・カカシ先生っ。」

「・・・っ。」

互いを扱き合い同時に達した。

はぁはぁと熱い息を吐き出しながら、再びキスを繰り返し、性急に体を求めた。

イルカ先生の唾液がオレの中に。オレの唾液がイルカ先生の中に流れ込む。

先刻放った体液を指に絡ませ、後口に触れた。

指で解しながら前を口に含むと、力を無くしたそれが再び熱を持ち始める。

「は、あぁ・・・。」

後ろに異物感を、前に快感を与えられ、イルカ先生の口から切なげな吐息が漏れた。

自分の指と口がイルカ先生を乱れさせてると思うと、それだけでイってしまいそうに興奮する。

オレは逸る心を押さえきれず、強引に指を増やして、オレを受け入れやすいように慣らした。

クチュクチュといやらしい音を立てながら指を進め、ある一点を掠めるとイルカ先生が喉を反らせながら鳴いた。

「あっ、・・・ん、はぁっ、も・・・出る・・・っ!」

腰を揺らせ、いやらしい声を上げながら、イルカ先生が熱い体液を吐き出した。

それを嚥下すると、まるでアルコールを体内に入れたような、心地良い眩暈がした。

先刻まで鱈腹飲んでいた酒と混ざり合い、脳を鈍くさせるような眩暈。

血液が沸騰しそう。

オレはもう夢中になり、先走りの液でドロドロになった自身で一気にイルカ先生を貫いた。

「い・・・っ!」

痛みに体を引こうとするイルカ先生を強く抱きしめ、キスをしながら強引に体を進める。

獣のようにただ快楽を求めて腰を振った。

はぁはぁ吐き出す自分の息の音が、頭の中でガンガン響いて煩い。

頭を下げてしまったイルカ先生のそれを扱くと同時に、後ろのイイところも突きまくった。

するとイルカ先生は嬌声を上げながら、必死にこちらに合わせようと腰を振り始める。

先程までの苦痛に歪んだ表情は消え、恍惚の表情を浮かべるイルカ先生に脳が焼ける。興奮が増した。

「カカシ先生、カカシ先生、カカシせんせぇ・・・。」

イルカ先生は譫言のようにオレの名を呼び、切ない色を帯びた瞳からは涙を流し続けた。

―何が・・・そんなに悲しいの・・・?

鈍くなった頭で不思議に思ったが、その時のオレは行為に夢中になり過ぎて。

本能のままにイルカ先生を貪った。

 

 

 

 

 

オレに必死にしがみ付き、目元を染めるイルカ先生。

なんて可愛い。なんて愛しい。夢で何度も見たイルカ先生の姿。

汗で顔に貼り付いた髪に口付ける。

はっはっと短い息を吐き、涙を浮かべるイルカ先生に、

「あぁ、イルカ先生・・・か」

と囁き掛けると、またキスで塞がれた。

可愛いと言いたかっただけなのに・・・。

何度も好きだと伝えようとしたのに、オレが口を開くとイルカ先生が自分のそれで塞ぐ。

そしてやっと気が付いた。

この人はオレの言葉を恐れてるんだ。

きっと酷い言葉を投げかけられると思ってるんだ。

こんなに好きなのに。オレの心はこんなにあなただけでいっぱいなのに。

結局、最後までオレは気持ちを伝えられず、お互いを想い合う者同士の愛し合う行為のはずが、ただ快楽を求める行為になってしまった。

体の前に気持ちをつなげたかったのに、目の前にある愛しい人の体に溺れてしまった。

イルカ先生は切ない表情のまま。いつもの蕩けるような笑顔は一度も向けられないまま。

立て続けに三度の絶頂を向かえ、イルカ先生は意識を失った。

バカなオレは欲に溺れ、イルカ先生が意識を飛ばした後も腰を振り続けた。

 

 

 

 

 

イルカ先生と自分の体をキレイにしてベッドに戻る。

情交の後始末をしながら、漸く酒が抜け、冷え始めた頭で、オレは自分を罵った。

力尽くで黙らせてでも自分の想いを知らせてから抱くべきだった。

酒と欲に負けてしまった自分が不甲斐無い。

性急に乱暴に抱いてしまい、きっと心も体も酷く傷付けた。

イルカ先生はうっすら涙を浮かべ、苦しそうな表情で寝息を立てていた。

「ごめんね。・・・きっと同情で抱いたと思ってるんだよね?」

オレに気持ちがないって信じていたら、こんな抱かれ方辛いよね・・・?

返事がないのはわかって、話しかけた。

頬を撫でると涙が流れ落ちる。

―どんなに辛い夢を見てるんだ。

眠りながらも涙を流すイルカ先生を見ると、胸が痛んで仕方なかった。

涙を流すイルカ先生の顔がだんだん霞んでくる。

気が付くとオレの目にも涙が浮かんでいた。

体の欲は満たされたが、心は後悔ばかり。

早く心をつなげたい。早く、早くアナタとオレの想いは同じだと知って欲しい。

イルカ先生の手を取り、そっと頬を寄せる。

「ねぇ。オレもアナタと同じ気持ちなんだよ。愛がないのに抱くなんて出来ないんだよ?」

アナタの目が覚めたらこの胸に溢れそうな想いを全て伝えるから。

早く苦しい夢から抜け出しておいで。

 

 

 

 

 

  おわり

 

続きのお話し。「翌朝」

 

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「体液の交換」の話。
どっかで聞いて、最近ふと思い出して「よし!エロ再び!」とか思ってやっちゃいました。たはは。
あぁ〜やっぱエロシーンは恥ずかしい〜///
えらい時間かかっちゃいました〜続きが先に出来るくらい(笑)。
ここでの体液は唾液とか精液とか汗とかそんな感じでv
わかり辛いと思うけど、結局好きな人が出来るとキスとかセックスとかしたくなるってな意味ですよ・・・ね?
「翌朝」が続きです。よろしければどうぞv
最後までご覧頂き、ありがとうございました!

'06/3/11 葉月

 

 

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