最終電車 7
カカシは夢の中に居た。
幸せな夢。
イルカは相変わらず優しくカカシを気遣って。
菌を撒き散らすカカシの傍でせっせと看病してくれた。
「うつるよ・・・。」
そう言っても何も言わずに微笑むだけで。
咳込めば優しく背中を擦ってくれた。
おかゆを作って食べさせてくれた。
汗だくの体を拭いてくれた。
まるで親か恋人がしてくれるように無条件に優しくしてくれる。
イルカが傍に居る。
イルカが傍に居てくれるだけで嬉しい。
体は熱で辛かったけど幸せだった。
こんな恋人が欲しいと心から思った。
本当にイルカみたいな人が恋人だったら、と。
ふと夢から覚めて、意識が現実に戻った。
今まで見ていた夢が夢と分からなくて、イルカの姿を探してしまう。
「うみのさん・・・?あれ?」
熱で意識が朦朧とする。
部屋を見回したら脱ぎ捨てられたスーツが目に入って、今のは夢だったのだと気付いた。
昼から早退して寝ていたのだった。
カーテンの隙間から漏れる光がまだ明るい。
「なーんだ、夢だったんだ・・・。」
夢の中でえらく幸せを感じていたから、現実に戻った自分が一人きりで落ち込んだ。
さっきまでの幸せ過ぎた感覚だけが残って、無性に寂しくなった。
軽く咳込んで体を起こした。
ぜぃぜぃと喉の奥が鳴って、頭に響いてうるさい。
喉も頭も体の何もかもが熱くて重い。
水分を求めて重い体を引き摺ってキッチンに向かった。
冷蔵庫の中のペットボトルを手に取り、ギンギンに冷えた中身を大量に体の中に流し込む。
喉と胃が一気に冷えて気持ち良い。
水分を摂ってもう一眠りしようとベッドに戻る。
電気毛布のお蔭でポカポカの布団の中に潜り込んで目を閉じた。
さっきみたいな夢を見れるようにと願いながら。
額に触れられた気がして薄く目を開くと、イルカの顔があった。
心配そうに眉尻を下げて、カカシを覗き込んでいる。
「気分はどうですか?」
優しく問われて、夢の続きなんだと思った。
夢だとしても、イルカが傍に居ると思うと、嬉しくて泣きそうになった。
今の自分はどうかしている。
イルカが恋しくて恋しくて堪らない。
熱の所為だと思い込んだ。
「これ、夢だよね・・・?さっきも夢にアンタが出て来たよ。」
クスクス笑いながら言った。
「ずっと傍に居て優しく看病してくれてさ。体は辛いんだけどアンタが傍に居てくれると・・・。」
イルカは何も言わず、冷えたタオルをカカシの額に置いた。
「アンタが人に好かれる理由が分かる気がする・・・。何か和む・・・っていうか・・・癒される?」
熱に魘された頭にふと浮かんだ。
「あ、分かった。名前も癒し系だ・・・ふふ。」
イルカが傍に居ると癒される。
纏う空気だとか、物腰だとか、何もかもが優しい。
「イルカって名前可愛いよね。」
嬉しくなって「イルカイルカ」と口の中で何度も繰り返した。
「・・・もう黙って。眠って下さい。」
優しく口を抑えられて、カカシは黙った。
イルカが布団の上からポンポンと規則正しく叩く。
布団の中で小さく咳を繰り返すと、イルカが何か飲むかと聞いて来た。
カカシの意識は心地良い眠りの波に揺らされていて、水分を欲しているけど動けなくて。
「飲みたいけど起きれない・・・。」
そう言うと、随分長い間があって、その後柔らかい何かに唇を塞がれた。
ゆっくりと水分が口に入り、喉が潤されていく。
何度も繰り返されて、やっと落ち着いたカカシの意識は深く沈もうとしていた。
額のタオルを取り替えられ、頬やら首やらを撫でられて、少し意識が浮上した。
ゆっくり動く手に自分の手を添えて頬ずりをする。
「・・・ねぇ、もう少し・・・傍に居て?」
イルカの手の感触が心地良くて離さずにいると、
「手、手を離して・・・下さい・・・。」
変に上擦った声でイルカが言った。
聞きたいのはそんな言葉じゃなかったから、添えた手を離さなかった。
そのままでカカシは眠りに落ちていった。
イルカの泣き声を聞きながら。
イルカはカカシの名を呼びながら泣いていた。
声を押し殺そうとしているようだったけど、嗚咽がずっと耳に届く。
「何で泣いてるの?」
そう聞きたかったけど、カカシは沈む意識に抗えなかった。
「泣かないで・・・。」
言葉にはなっていなかったけど、そう言おうと必死だった。
泣かないで・・・。
何だろうこの痛み。
アナタが泣くと胸が痛む。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一ヶ月振りにちょっと進んだ・・・(^-^;
ご覧頂きありがとうございました〜!
'07/4/9 葉月