最終電車 6
それから部屋に戻って、暫くベッドの上でゴロゴロしていた。
イルカが帰って一人することも無くて、これ以上眠れそうにもなくて。
無駄に時間を過ごす。
一人きりになった自分の部屋がやけに広い。
ガランと広い部屋が寒く感じた。
突然、無性に寂しく、人恋しくなる。
「退屈・・・寒い・・・。」
毛布に包まっても全然温もらない。
昨夜のイルカの温もりが恋しくて、電気毛布を買いに行こうと急に思い立った。
沢山寝て、ご飯もしっかり食べて、体は大分楽になっていたから。
日はまだ完全に落ちておらず、出掛けるのに遅すぎる時間ではなかった。
少し足を延ばして、新しく出来た量販店に行ってみよう。
久しぶりに車を出して遠出をした。
気分良く走らせて目的地に着いたのはいいが、えらい混み様で駐車場に入れるまで時間が掛かった。
オマケに店内も凄い人だかりだ。
何とか目的の物を手に入れたら、脇目も振らずに帰った。
家に到着した時には日はどっぷり暮れてしまい、人込みに酔って気分は最悪だ。
イルカのお蔭でせっかく快復に向かっていた体調を、自ら悪化させる破目になった。
「アホかオレは・・・。」
頭痛のする頭を押さえ、イルカの残した雑炊を平らげる。
軽くシャワーを浴びて真っ直ぐ床に就いた。
早速手に入れた電気毛布を高めの温度で設定し、ポカポカの布団の中で丸くなる。
恋しかった昨晩の温もりに似て、よく眠ることが出来た。
早めに床に就いたお蔭で、随分長い時間眠れた。
夢見も悪くなかった。
だが、目覚めた時の体調は最悪だった。
電気毛布のスイッチを一晩中入れっぱなしで眠ってしまったのだ。
しかも設定温度はかなりの高温で。
その結果、掛け布団はカカシの上からベッドの下へと移動していた。
眠っている間に蹴り落としていたらしい。
明け方あまりの寒さに目覚めて引き上げたが、既に遅かった。
朝晩と冷え込む今の季節に、何も被らずに一晩眠るなんて。
そりゃ具合も悪くなるというものだ。
体調は悪化して、本格的に風邪を引いてしまったようだ。
目が覚めてからは、クシャミやら咳やら鼻水やらが出っぱなし。
「ぶえっくしょ!・・・あ゛ーくそっ!何やってんだ・・・オレ。やっぱりアホだ・・・。」
バカは風邪引かないっていうのになー、とブツブツ言いながら出勤の支度を始める。
喉は痛くて声はガラガラ、頭はガンガンするし、熱っぽい体はダルくてダルくて。
フラフラしながら出勤した。
電車から降りたところで声を掛けられた。
「はたけさん!おはようございます。」
イルカだ。
「大丈夫ですか?何か具合悪そうですけど・・・。」
心配そうに顔を覗き込まれて、苦笑しながら答えた。
「あーおはようございます。同じ電車だったんですね。いやー本格的に風邪引いちゃったみたいで・・・。」
「うわ、酷い声ですね・・・。昨日は良くなってたようだったのに。」
「はは。面目ない・・・。色色お世話してもらったのに悪化させちゃいました。」
昨日は散散世話をしてもらって気遣ってもらったから、申し訳ない気持ちになる。
「今日は休まれた方がいいんじゃないですか?」
「午前中会議があるんで、それが終わったら帰ります。」
会社に到着して別れる間際まで、イルカは心配そうにカカシを気遣った。
ほんとにいい人だと思った。
午前中を何とか乗り切って帰路についた。
帰りがけの周りの反応は冷たいもので、
「うつるから早く帰れ!」
「まさかインフルエンザじゃないだろうな?」
「明日までに完治させろよ!」
と人をまるで黴菌のように追い払う。
「お大事に〜」と口を揃えて、早く帰れ、とカカシを急かせた。
まぁ、菌をバラ撒いてるわけだし迷惑だろうけど、少しは労わりの言葉をくれても・・・と悲しくなる。
優しくない連中ばかりだ。
部下のナルトまでも、「明日はマスク忘れちゃだめだってばよ!」とヒラヒラ手を振って、カカシを見送った。
全員口元は手で固くガードして。
営業部にカカシの体調を案じてくれる人間はいなかった。
皆自分が可愛いらしい。
イルカとえらい違いだ。
「心が寒いなぁ・・・。」
電車に揺られながら呟いた。
目を閉じてイルカのことを考える。
何であの人はあんなにも優しくしてくれるんだろう。
体調の悪いカカシを精一杯気遣ってくれる。
「うつるから寄るな」なんて、間違っても言わない。
体調が悪い時に一人でいると淋しくて心細くて人恋しくて。
イルカのことをずっと考えていた。
イルカのことを考えていると、気が紛れた。
電車の中で。家まで歩きながら。家に着いてベッドに入ってからも。
ずっとイルカのことを考えていた。
眠る寸前までイルカのことを考えていた所為か、夢にイルカが出て来た。
夢の中でもイルカは優しかった。
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今妹が風邪引きさんです。
一つ屋根の下にいるのに、私には全くうつる気配なし・・・(笑)。
ご覧頂きありがとうございました〜!
'06/3/9 葉月