最終電車 5
夜中に激しく咳込んで目が覚めた。
眠りながら何度も咳込んで、夢から覚めても止まらなくて。
すると腕が伸びて来て、カカシの背中を優しく擦った。
「大丈夫ですか?水飲みますか?」
そう問われて、背中にある手はイルカの物だと気が付いた。
「・・・うみの、さん?もう片付け終わったの?」
イルカはクスリと小さく笑って、「とっくに終わりました」と言う。
―じゃぁ何でこんな所にいるんだろ・・・。
朦朧とした頭で考えて、自分がベッドを占領しているからだと思った。
寝る場所が無くて困っていたのだと。
布団を持ち上げて、イルカを誘う。
「ごめんね、オレ一人ベッド使って・・・。ちょっと狭いけど一緒に寝よ・・・。」
目を閉じたままそう言って暫く待ったが、イルカは一向に動く気配が無い。
カカシが焦れて「寒いから、早く」と言うと、ノロノロと布団に入って来た。
カカシが咳込むとイルカは背中を擦ってやり、男二人には狭いベッドで密着して眠った。
「あったか・・・。」
イルカは暖かくて、それにしがみ付いて眠った。
カカシはイルカの温もりで、忽ち夢の中へと戻った。
翌日。
遠慮がちなイルカの声に起こされて、買い物に出るから鍵を貸してくれと言われた。
「かぎ・・・どこ入れたかな・・・。」
ボンヤリしたまま起き上がって、カバンの中やら上着のポケットやらを探る。
「はい、鍵。あとこれ、使ってね。」
探し当てた鍵と、財布から取り出した数枚の札をイルカに手渡しながら言った。
「え・・・。こんな、いりませんよ!散散世話になったんだから食費くらい出します!」
「んー。・・・世話した分は掃除と洗濯。おさんどんのお礼に費用はオレ持ちでチャラってことで。」
何か間違ってる?と詰めるとイルカは少したじろいだが、頑として受け取ろうとしない。
「いいから」「いりません」と押し問答が続く。
「あー喉痛いなぁ。もうベッド戻った方がいいかも〜。」
ゴホンゴホンとわざとらしく大袈裟に咳をしてみせると、イルカが力を緩めた。
緩んだ隙に強引に押し付けてベッドに戻った。
「オレもうちょっと寝るから。ご飯出来たら起こしてね〜。」
布団からヒラヒラと手を出して軽い調子で言ったが、イルカは暫くその場に留まっていた。
手の中の札に困っていた様だが、カカシが動かずにいると、諦めて寝室を後にした。
イルカがやっと出て行った後、カカシは薄く目を開いてポツリと呟く。
「・・・ほんっとお堅い人だねぇ。」
安い食費くらいでムキになるイルカが不思議だ。
なんていうか、物凄く義理堅い人なんだろうな、と思う。
受けた恩は絶対返さないと!とか思ってるんじゃないだろうか。
「なんか犬みたい・・・。」
くつくつと小さく笑って、カカシは再び眠りに落ちた。
次にイルカの声を聞いたのは、昼を大分過ぎた時間。
ご飯の用意も、掃除も洗濯も、完璧に終わっていた。
イルカはカカシの体調を気遣い、約束をした茄子の味噌汁の他に、消化の良い物を作ってくれていた。
「夜ご飯にでも暖めて食べて下さいね。」
と、鍋には雑炊まで用意されていて。
カカシは感激しながら食卓に着いた。
「うみのさんすごいね!お母さんみたい!」
そう言うと、イルカは「お母さんって・・・」と苦笑しながらも、嬉しそうにする。
イルカと共に取る食事は、穏やかで楽しくて。
会話は多くはないけれど、テレビから流れる音と、ゆったり流れる時間が心地良くて。
カカシは一人幸せを感じていた。
食後にお茶を淹れてもらって、まったり過ごしていると、イルカが思い出した様に騒ぎ出した。
「そういえば、はたけさん家の洗濯機。乾燥機付きなんですね!金持ちですね〜!」
いいなーいいなーと、何度も羨ましがる言葉を口にするイルカが可笑しくて。
「洗濯物って干すのが面倒でねぇ・・・。何なら嫁に来る?オレのも洗ってくれるなら毎日使っていいよ。」
からかい混じりに口にした。
「・・・い、いですねぇ〜!もちろん養ってくれるんですよね?」
「当然ですよ。オレ良い旦那になると思うんだけどなぁ。働き者だし、ギャンブル嫌いだし、暴力反対だし〜。」
「ね、そう思わない?」と首を傾げて微笑み掛けると、イルカは視線を逸らせた。
心なしか頬がピンクだ。
「自分で言ってたら世話ないですよね・・・。まぁ、考えときます。」
そう言って呆れ気味にイルカが笑うので、カカシも「よろしくね」と笑った。
食事も片付けも終えて、イルカは早早に帰り支度を始めた。
何となく名残惜しくなって、
「もう少しゆっくりしてけば?」
軽く引き止めても、病人の家に長居しては迷惑だから、とあっさり断られた。
それなら車で送ろうとするも、病人は寝てて下さい、とそれも断られてしまった。
手持無沙汰でソファでゴロゴロしていると、ビニール袋を持ったイルカが近付いて来た。
「あの、これ。飲んでおいて下さいね。」
こっちはちゃんと自分のお金で買ったんですよ!と手渡されたのは、咳止めの薬とのど飴。
「咳辛そうだったから・・・。お、お節介かもしれませんけど!」
こんなこと予想もしていなかったから。
イルカの気遣いに驚いて。
お節介が嬉しくて。
自分の財布から出したと強調するイルカが可愛くて。
渡された物を手に呆けてしまった。
その間に顔を赤くしたイルカはバタバタと出て行った。
我に返って慌ててイルカの後を追う。
大急ぎで扉を開けて顔を覗かせると、イルカはエレベーターに乗り込む寸前。
「うみのさん!ありがとう!気をつけて帰ってね!」
叫んで手を振ると、イルカも軽く手を振り返して、エレベーターの中へと消えた。
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お母さんみたいなイルカ先生。私が嫁に欲しい(笑)。
関さんボイスだし毎日萌え死にしてしまうーvvv
あーでもそれより、今は乾燥機付の洗濯機のが欲しいな・・・(笑)。
ご覧頂きありがとうございました〜!
'06/2/9 葉月