最終電車 3
カカシは便器の前で丸くなる男を見た。
家まであと少しというところで、イルカが「吐きそう・・・」と言うので足を止めた。
道路の脇に屈み込んだはいいが、自力で吐出出来ずに咳を繰り返すばかりで。
自宅まで何とか連れて帰り、指を突っ込んで吐かせてやっているところだった。
涙を浮かべて嘔吐を繰り返す背中を擦ってやる。
―この人もこんなになるまで飲んだりするんだ。こんな姿想像出来なかったなぁ。・・・意外。
どちらかというと介抱する側のイメージ。
「ねぇ、何でこんなになるまで飲んだの?」
「・・・友達が・・・ひ、どい振られ方を・・・して・・・。自棄酒に付き合・・・っ。」
イルカは胃の中の物を苦しそうに吐き出しながらも、途切れ途切れに答えた。
―ふーん。自棄酒に付き合って、か。人良さそうだもんねぇ。
成程。合点がいった。
うみのイルカははたけカカシと同じ会社の総務部に在籍している。
カカシの部下のナルトと知り合いでもあった。
詳しい関係は聞いていないが、学生時代お世話になったとナルトが言っていた。
イルカを慕って同じ会社を目指したんだとも言っていた。
そんなに慕われるなんて幸せな人だねぇ、と思った記憶がある。
耳に入る周囲からのイルカについての評価に悪い物は無かった。
人当たり良し・温厚・真面目・礼儀正しい。
これでは嫌われる要素は無い。
直接関わりは無かったが、「うみのいるかはいい人らしい」というのがイルカに対しての認識だった。
今日実際関わってみても、腰は低いし礼儀正しいし、イメージ通り。
頻りに詫びの言葉を発して只管に恐縮するもんだから、クソ真面目というか何というか・・・と思う。
こんな時に他人に気を使わなくてもいいのに。
きっとこの人明日になれば慌てふためくんだろうなぁと思って、そんな姿が容易に想像出来るから、何だか少し笑えた。
疲労困憊なところにえらい面倒を喫しているのに。
心の中で何度も溜息を吐きながらも、何故だかイルカに好感を抱いている自分に気が付いた。
胃を空にして漸く落ち着いたイルカはぐったりと意識は混濁して、一人で歩くことも覚束無かった。
仕方が無いので肩を貸してやってベッドまで運ぶ。
―お、重い・・・!
イルカの体はぐにゃぐにゃで足許もふらついて。
何度も躓きそうになりながらやっと寝室に辿り着いた。
予想以上の大仕事に乱れた息を整える。
少し汚れてしまったシャツを着替えさせ、布団を被せて立ち上がる。
「ふぅ。・・・えらい拾い物しちゃったなぁ。」
カカシは暗闇の中独り言ちた。
ネクタイを外して襟元を緩めて、ソファへと倒れ込んだ。
「疲れた・・・。」
イルカの世話を終えて、やっと人心地がついた。
はぁぁ〜・・・と長くて大きな溜息を吐き出すと、ここに来て張っていた気が緩んだ。
明日は土曜日。
会社は休みだが、今日残して来たものを完成させに少し出勤しなければならなかった。
昼までは寝よう、と携帯のアラームをセットして。
シャツを着替えて風呂にも入らなければ・・・と思うものの、もう体が動かない。
目を閉じると疲労を溜め込んで重くなった体は弛緩して、ソファに吸い込まれる様にどんどん沈んで行った。
―気持ち、良い・・・。・・・風呂、はもう明日・・・。
カカシは意識を手放した。
明け方。
カカシは小さくクシャミをして目を覚ました。
喉が酷く渇いて、奥が痛みを訴えていた。
ソファで何も被らず寝ていたことに疑問を覚える。
やけに動きの鈍い脳で暫くぼんやり考えたが、上手く思考が纏まらない。
眠気で意識もはっきりとしない。
昨夜何かおかしなことがあったはずなのに、何故だか少しも思い出せなかった。
「何だっけ・・・?」
声に出してみても濁った頭はサッパリ機能してくれない。
記憶が霧が掛かった様に曖昧で。
疲れてるなぁ・・・と小さく苦笑した。
取り敢えず喉の渇きを潤そうとキッチンで水分を補給し、フラフラと寝室へ足を運ぶ。
途中数度咳をすると、覚えのある苦味が喉の奥に広がり、ヤバイと思った。
ベッドに倒れ込んで布団に入ると、暖かい温もりに迎えられた。
―何だこれ・・・・・・?誰か入れたっけ・・・?
目を閉じると体は布団に吸い込まれる様に沈み、意識も忽ち沈んで行った。
―ま・・・ぁ、何でもいいや・・・あったかい、し・・・。
心地良い温もりを引き寄せて、再び眠りへと落ちる意識の片隅でそう思った。
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う〜ん。中中話しが進まん・・・(^-^;
ナルトの年齢おかしいやろ!とか深く考えてはいけませんよ。
パラレルですから。捏造ですから(笑)。
ご覧頂きありがとうございました〜!
'06/10/25 葉月