最終電車 2

 

 

 

 

 

「お客さん!終点ですよ!」

肩を揺さ振られて覚醒した。

心地良い温もりと電車の揺れ、その上に蓄積された疲労も乗っかって、完全に意識を無くしていたようだ。

どんなに疲れていても電車で眠ることなどなかったカカシは心底驚いた。

公共の場で熟睡するなんて初めてのことだった。

「うそ!もう終点!?」

慌てて立ち上がろうとして、肩が重いことに気が付いた。

そういえば隣にイルカがいたのだった。

「もう車庫に入りますよ。早く降りて下さいね。」

「す、すみません。直ぐに降ります。うみのさん!起きて!」

冷たい視線に焦ってイルカを揺さ振る。

イルカは相変わらず苦しそうに眉を顰め、酒くさい息を吐き出していた。

「うみのさん!うみのさんってば!」

頬をペチペチと叩いても、うんうん唸るだけで一向に起きる気配がない。

仕方なく強引に引き起こし、半ば背負う形で車外へ出た。

外気は冷たく澄んで、少し肌寒さを感じるほどだった。

「さむ・・・。やっぱり夜は冷えるねぇ。」

呟きながらホームの椅子へと足を運ぶ。

ゆっくり下ろすと、イルカはぶるっと肩を震わせ、漸く薄く目を開いた。

カカシはイルカの前で手をひらひらさせながら声を掛けた。

「あ、起きた。うみのさん大丈夫?立てる?」

「はたけ・・・さん?・・・あ、いつもナルトがお世話になっておりますぅ・・・。」

イルカは姿勢を正して礼儀正しく答えたが、直ぐに口元を押さえて屈み込んだ。

「う゛ぅ・・・すみません。ちょっと・・・体調が優れ・・・ないので・・・失礼します。」

暇を告げようとするも、絶え絶えな様子で痛痛しい。

カカシはフラフラ歩き始めたイルカを支えてやり、共に歩を進めた。

「ちょっと大丈夫?どこ行くの?ここどこだか分かってる?」

すみませんすみません、と繰り返すイルカを駅の外まで運び出し、カカシは声を掛けた。

すると漸くイルカは状況に気付いたようで、辺りをキョロキョロ見回した。

「ここ終点なんだよ。あなたの家の最寄り駅はどこ?」

「・・・終点。オレ・・・の駅?駅、駅〜・・・は・・・えっと・・・。」

イルカは一生懸命考えていたが、頭が回っていないようでなかなか言葉が続かない。

カカシは心の中で溜息を一つ吐き出し、次の質問を口にした。

「あ〜・・・。じゃ、住所。住所は?言える?」

イルカの口から出た住所は、現在地と会社の中間地点だった。

つまりイルカが自宅に戻るには、電車に乗っていた半分の距離をタクシーか自家用車で戻るか。それしか方法は無かった。

こんな状態の人間をタクシーに一人押し込めるには心許なく、かといって車で送る気力はない。

途端カカシは面倒になり、イルカを自宅に招き入れようと決心した。

会社の人間を自宅に招くのは抵抗があったが、こうなったら仕方ない。不可抗力だ。

今週は毎日のように残業で、午前様になることも屡。疲労はピーク。

カカシは疲れていた。早く帰って休みたかった。

「うみのさん、少し歩ける?ここから10分くらいでオレの家だから。泊めてあげるからおいで。」

「へ・・・?や、そんな・・・。大丈夫です。帰れ・・・ますから・・・。」

「何言ってんの、そんなフラフラで。いいからおいで。」

足を進めようとするが、イルカは頑なに拒んだ。

「大丈夫・・・です。・・・タクシー・・・拾うか、その辺で始発待ちますから・・・。」

「もう!自分の状態分かってる?ここからだとタクシー代高いよ?始発にもまだまだ時間あるし。今の季節に外で始発待ったら風邪ひくでしょ?」

少し口調を強めると、イルカはしゅんと黙り込んでしまった。

気まずい沈黙が流れた。

「すみません・・・。・・・ね。じゃぁ交換条件。料理出来る?」

「・・・はぁ。少しは・・・。」

「決まり!明日オレのご飯作って。茄子の味噌汁ね。それでチャラ。」

カカシが妥協案を出し、イルカはカカシ宅で一晩世話になることとなった。

肩を組み帰路につく。

道すがら、イルカはただただ恐縮するだけだった。

 

 

 

 

 

→3

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現実は真夏ですが秋→冬くらいのお話です。
早く涼しくならないかな〜♪
ご覧頂きありがとうございました〜!

'06/8/9 葉月

 

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