瓶底先生 7
「久し振り!」
「全然変わってないな〜イルカ!」
「そっちこそ!」
「一年振りくらい?」
「いや、一年は経ってないよ。十ヶ月くらいじゃないか?」
軽く挨拶を交わして居酒屋へと足を運ぶ。
今日は学生時代の友人と久し振りに会うことになっていた。
保育士の資格を取る為に通っていた専門学校で一番仲の良かった友人。オレと同じで男の保育士だ。
別別の保育園に就職した今でも、数ヶ月に一回は近況報告がてら飲みに行く。
「元気そうで良かったよ。どう?仕事の方は?」
「相変わらず。毎日子供とのバトルだよ。」
はは!と軽く笑ってグラスを合わせる。
「イルカの方は?何か変わったことないのか?」
「今年から男の先生が入ったんだけどさ〜。」
瓶底の話題を持ち出して、一から十まで詳しく話して聞かせた。
年上の男なのに何処か頼りなくて、面倒見てやらなきゃいけなく思うこととか。
眼鏡とマスクで隠れた素顔は実はめちゃくちゃ男前だったとか。
休日には頻繁に遊びに来るから一気に仲良くなってしまったとか。
「えらい懐かれちゃってんな〜!でも、オレんとこは男一人だから羨ましいよ。」
はーと小さく溜息を吐きながら言うから苦笑してしまった。
「そうだよな・・・まだまだ女社会だから色色気ぃ使うよな・・・。」
「ていうか、それ女の子だったら言うことないのにな。お前絶対好きになってるよ!」
ビシっと指差されて言われた。
「だってお前お節介だし、面倒見良いし。頼りなくて放っておけない感じの子、好みだろ?」
・・・図星。
「学生時代の彼女もそんな子じゃなかった?」
そう言われて思い出した。
オレが生まれて初めて付き合った相手。
生まれて初めて体を重ねた相手。
同じ学校の生徒で、卒業するまで付き合っていた。
社会人になってから自然消滅してしまったけれど、大切な思い出として胸に残っている。
「可愛い子だったよなぁ。元気にやってっかなぁ?」
「最近結婚したらしいぞ。できちゃった結婚だって。」
「そうなんだ・・・良かった。幸せなんだな。」
ホッとして呟いたら苦笑いされてしまった。
「お前っていいヤツだよな。別れた彼女のことなのにさ。」
「いや、何か中途半端に終わっちゃったからさ。今が幸せなら良かったな〜って。はは!煽てても何も出ないぞ!」
照れ隠しにグビっとビールを飲み干した。
新しいビールを注文して友人の方へ向き直したら、照れ臭そうな表情で切り出された。
「あのさ・・・。」
「どうした?」
「実はさ、オレ彼女出来ちゃった。」
「・・・マジかよ!早く言えよー!で、何時からの付き合い?」
ぐぐぃっと身を乗り出して聞くと、友人は頬を染めながら惚気始めた。
「やー三ヶ月くらい前からなんだけど、可愛くてさぁ。趣味も合うし一緒にいると楽しくって。」
「かーっ!惚気ちゃって!どうしてもっと早く教えてくれなかたんだよ!」
ちょっと不満気に言うと、「会って直接報告したかったから」と幸せそうな表情で言われた。
友人の幸せそうな顔を見たらオレまで嬉しくなっちゃって。
自分のことみたいに嬉しくなってきた。
「じゃ、改めて乾杯しようぜ!」
届いたばかりのビールを持って「おめでとう!長続きさせろよ!」と再びグラスを合わせた。
「お前ほんっといいヤツだよなぁ。オレ、イルカと友達で良かったよ!ずっと友達でいような!」
そう言って大袈裟に泣き真似までされて。
その後は店を出るまで只管惚気話を聞かされた。
駅から家までの道のりを、酔い冷ましに時間を掛けてのんびり歩いた。
今日は本当に美味い酒が飲めた。
友人のおめでたい近況も聞けたことだし。
自然と笑みが浮かぶ。
「いいなぁ〜オレも恋がしてぇ!」
瓶底と友人から立て続けに恋愛話を聞いて、何だか無性に恋がしたくなった。
オレには社会に出てからそっち方面はめっきり音沙汰が無いから羨ましい。
もう2年以上恋をしていない。ときめきとは無縁の生活が続いている。
「出会い、落ちてないかなぁ・・・。」
瓶底も友人も楽しそうで、本当に羨ましい限りだ。
瓶底はハナちゃんと進展はあったのだろうか。
瓶底とはタオルを貰った日からプライベートでは会っていない。
職場では毎日のように顔を合わせてるけど、休みの日は互いの予定が合わなかった。
瓶底にはハナちゃんとの予定が入ってたり、オレにも友人と会う予定が入ったり。
交互に週末の予定が埋まってしまって、一ヶ月近く職場でしか顔を合わせてない。
だから、その後の詳しい話を聞き出せてなかった。
ふと瓶底の真っ赤になった顔が頭に浮かんで、思い出し笑いをしてしまった。
きっとハナちゃん相手でも、直ぐ赤くなってアワアワしてんだろうな〜と想像すると笑えてきた。
「よし!次遊ぶ時はその後の進展を白状させてやるか!」
次の休みの日には久し振りにオレが瓶底の家に遊びに行こう。
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今回はカカシ先生出番無し!
ご覧頂きありがとうございました〜!
'07/11/30 葉月