瓶底先生 6

 

 

 

 

 

ある日、手土産にと百貨店の紙袋を渡された。

例のごとく休日に瓶底が遊びに来た時のことだ。

そんなに気を使わなくてもいいから、と言っても、ほぼ毎回何か持ってやって来る。

大抵酒とかつまみとかお菓子とか食料が多いけど、今回は違った。

オレは丁寧にお礼を言って、その紙袋を開けた。

中に入っていたのは、オレでも知っている有名なブランドの包装紙で包まれた物。

それを開けると中からはハンドタオルが出て来た。

グレーと青の二枚入り。隅っこにブランド名が刺繍されている。

ご丁寧に箱に詰められてリボンまで掛けられて。

うわぁ、高そう・・・。

「前タオル貰ったから何かお礼しなきゃ、と思って。それで、あの、良かったら使って下さい。」

瓶底はオレの反応を伺いながら遠慮がちに言った。

あんな使用済のタオル(と言っても実はあの日おろしたてのおニューだったけど)一つ気にしなくてもいいのに。

悪いなぁ、と思いつつも瓶底の気遣いが嬉しい。

律儀なヤツ。

どんな顔してコレ買いに行ったんだろ。

店頭で一生懸命タオルを選んでいる瓶底の姿を想像したら微笑ましくなってしまう。

ほんっと可愛いヤツだよな〜コイツってば。

「ありがとう。うん、使わせてもらいますね。」

瓶底はホッとしたように肩を降ろしてニッコリと笑った。

「じゃぁ、カカシ先生どっちが良いですか?」

「え?」

「青とグレー。どっちが良い?二枚あるから一枚あげますよ!」

「そんな・・・二枚共イルカ先生が使って下さい。」

「いいからいいから!大サービス!って、貰った物で何ですけど。」

まぁ今はもうオレの物だから。

と、ちょっと苦笑しながら言うと、瓶底も笑いながら手を伸ばした。

「じゃぁ、イルカ先生は青のが似合いそうだからグレーを。」

「はい、どうぞ。オソロですよ。あ、男同士でオソロなんて嫌ですよね!」

軽い冗談で言ったのに、瓶底は大袈裟に手を振りながら否定した。

「そそそそんなことないですっ!」

瓶底が焦って言うから声を立てて笑ってしまった。

ほんとに素直で可愛い反応だ。

何つーか、コイツってからかいたくなる性分なんだよな〜。

期待通りの反応寄越すし、妙に焦ってアワアワするから、ついからかいたくなってしまう。

弄られキャラってヤツだと思う。

「はは!冗談ですよ。じゃぁ一緒に使いましょう。」

「は、はぁ。」

百貨店の紙袋の中にはもう一つ袋があって、レンタル店の映画のDVDが入っていた。

瓶底は映画が好きみたいで、偶にこうしておすすめを借りて来てくれる。

オレも嫌いではないから一緒に見ることが多かった。

「じゃぁ早速これ見ましょうか!」

タオルを片付けて準備をする。

今日も特に予定はないので、映画を見ながらお菓子を食べて世間話をして。

まったりオレの家で過ごす。

「タオル買ったお店のね、店員さんが良い人だったんですよ〜。」

ふと、思い出したように瓶底が話し始めた。

「凄い親切で色色話し掛けてくれてね。オレ決めるのに時間掛かったのに優しくてね。」

商品を決めるまでずっと長い時間喋っていたらしい。

そりゃー百貨店に入ってるブランドの店員なんだから当然の接客態度だと思うが・・・。

なーんて思ったけど、瓶底があんまり嬉しそうに話すので黙って聞いた。

「それでね、その店員さんと仲良くなったんです。」

瓶底が言うには、その後百貨店を出て街をブラブラしていたら、信号待ちの時に偶然その店員が隣に立っていたらしい。

きっと瓶底は街中でも目立つ。

背は高いし、デカい瓶底眼鏡と前髪で顔の大半は隠れて怪し・・・いやいや!こ、個性的な風体だし・・・。

店員もきっと印象に残っていたんだろう。

最近はマスク装着の姿は見ないから、その時も着けていなかったのかな。

ついでに眼鏡もコンタクトに変えて、前髪もどうにかすれば、逆ナンでもされそうな男前なのになぁ・・・。

あぁ〜勿体無い。

その店員は昼休憩で外に出たらしく、時間的にも丁度昼ご飯の時間だったから食事に誘われたらしい。

初対面の相手と食事に行ったなんて・・・成長したな〜コイツ。

大きくなって・・・!

でも、ちゃんと話出来たのかな、と少し心配してみたり。

まるで親みたいな心境で聞いていた。

「へー凄い偶然ですね!」

余程気が合ったんだろう。瓶底は楽しそうにその時の様子を話し続けた。

「ハナちゃんって言うんですけど、すっごい良い人で今度またご飯食べに行くことになって。」

・・・『ハナちゃん』って!?

女の子なのかーーー!!!

てっきり男だと決めてかかってたからびっくりした。

「その店員さんって女の子なんだ!」

「そうですよ?」

「いや、てっきり男だと思って聞いてたから・・・。」

一気にテンションが上がる。

「で!可愛い!?」

「うん。可愛いですよ。良い人だし・・・って、イルカ先生?」

オレが身を乗り出して興奮気味に聞くから、瓶底は怪訝な顔してちょっと引いてた。

いかんいかん。興奮しすぎた。多分ニヤけてる。

だって瓶底の口から女の子の話が出るなんて予想外すぎる!

「そっか〜可愛いんだ。それでそれで!今度ご飯は何時行くんです?」

オレは興味津津でウキウキしちゃって、映画そっちのけで根掘り葉掘り『ハナちゃん』話を続けた。

瓶底ってばどんどん赤くなってアワアワしちゃって。

そんなに照れなくてもいいのに、ってくらい真っ赤になるのでピンときた。

一目惚れ!?・・・とまではいかなくても、絶対好感を持ってる。

「良い人」って連発だし、初対面なのに食事にまで行っちゃってるし。

いいなぁ〜青春だなぁ!

これは近い内に恋バナになりそうな予感。

今までさっぱり色気の無い付き合いだったが、ここにきてやっと恋愛ネタが持ち上がって来た。

いやー楽しい!

他人の恋愛話を聞くのは楽しい!

ワイドショーなんかで芸能人の色恋沙汰を見るのと一緒だ。

オレは結構そういうのが好きだったりする。

「いいなぁ、可愛い女の子の友達が出来て!上手くいったら絶対教えて下さいよー!」

「ち、ちが・・・違うんです。ハナちゃんはそういうのじゃなくって・・・。」

ごにょごにょ俯いて言い訳しようとするから、

「まぁまぁ照れないで!もっと仲良くなったらオレにも紹介して下さいね!」

心の中で「頑張れよー!」って励ましながら元気良く言った。

瓶底は真っ赤な顔のまま頷いた。

 

 

 

 

 

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ま、また長いこと放置してしまった・・・。
やっとハナちゃん出てきたー(^-^;
ご覧頂きありがとうございました〜!

'07/11/26 葉月

 

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