瓶底先生 5
それからよく互いの家を行き来するようになった。
週末には必ずと言っていいほど、どちらかの家に酒を持ち寄って、色んな話をした。
以前、週末の仕事帰りにオレの家で飲んでいて、そのまま瓶底が泊まって行ったことがあった。
そのまま休日が終わるまでオレの家に居続けた。
それが切っ掛けで、休日も瓶底は遊びに来るようになった。
せっかくの休みだ。他に予定もあるだろうし、こちらから何も約束しないでいると、
「明日遊びに行ってもいいですか?」
と、瓶底はよく手土産を持ってオレの家にやって来た。
オレは休日くらい家でゆっくりしたいと思ってるので、瓶底が来ても家でゴロゴロしたり、近所に買い物に行くくらい。
後はテレビを見たり、瓶底が持って来た映画を見たり。
瓶底もどこか遊びに出ようと誘うわけでもなく、オレの横でまったり時間を過ごした。
何だか野良猫にでも懐かれたみたいだ。
少し心配になって、せっかくの休みなのにオレと家で引きこもっていいのか、と聞いてみた。
「イルカ先生とこうやってゴロゴロして色んな話出来るの楽しいです。」
ニコニコしながらそう言った後、迷惑じゃないかと心配そうに問われた。
くぅ〜可愛いこと言いやがる!
瓶底とは馬が合うんだと思う。
というか、なんとなく放っておけない弟みたいな感じで・・・年上のはずなんだけど。
色色面倒を見たくなる。
こうやって自転車をせっせと漕いで遊びに来るところも可愛くて。
迷惑どころか懐かれて嬉しく思う。
一人でゴロゴロ一日過ごすのもいいけれど、瓶底と一緒にゴロゴロするのも悪くない。
瓶底が一日傍に居ても全然邪魔に思わないし、ご飯の用意とか洗濯とかも手伝ってくれるし、至れり尽くせりだ。
って、面倒見られてるのはオレか!?
まぁ、そんなわけで、一緒に過ごす時間がグンと増えた。
これって瓶底が入って来る前に夢見てた関係と近いような・・・。
ちょっとそれ以上に仲良くなり過ぎてるかもしれないけど・・・まぁ楽しいからいいか。
瓶底は変わった。
劇的に、と言いたいところだが、少しずつ。ちょっと渋渋。
まずマスクを外した。
オレがしつこく言い続けてやっとで。
「カカシ先生マスク外した方が良いですって!」
「無理です。」
「そんなこと言わずに!」
「嫌ですってば・・・。何でそんなこと言うんですか?」
「(だって怪しいもん)・・・ほら!これから暑くなるし!」
「・・・無理。・・・オレ赤面症だし。恥ずかしいんです。」
そんな遣り取りが何度かあって、オレがしつこく言い続けて煽てまくって、
「イルカ先生がそういうなら・・・。」
と渋渋外でもマスク無しで過ごすようになった。
初めてマスクを外して出勤した朝、園庭に居た子供達は瓶底を囲んで大騒ぎだったそうだ。
オレは部屋に居たから詳しくは知らないんだけど。
「瓶底先生マスクはー?」
「・・・マスクはちょっとお休みなんです。」
「メガネもお休みにしてー!」
何人かの子供がメガネを取ろうと瓶底を追い回したらしい。
園庭を逃げ回っていた、と他の先生から聞いた。
その場面を是非見たかった・・・。
いやいや、オレがその場に居たら助けてやれたのに。
きっと涙目になって逃げ回ってたんだろうなぁ。
その姿が容易に想像出来て、瓶底には悪いんだけどちょっと笑ってしまった。
「瓶底クン最近変わったわよねぇ。」
それから暫くしたある日、連絡ノートを書きながら一息ついている時に、紅先生とアンコ先生から言われた。
「イルカったら楽しそうなのに懐かれちゃって!」
「園庭に出てる時とか気が付いたらイルカの近くに居るわよね!」
「そうそう!態度全然違うわよね〜!」
「イルカと話してる時なんてめちゃくちゃ楽しそうだし!懐かれてるわよね〜!」
二人声を合わせて言った。
「「で!顔見た!?」」
流石女性だ。三人寄らなくても姦しい・・・。
いや、悪い意味ではないんだけど。
「最近マスクしてないじゃない?鼻から下は結構整ってるわよね!」
「メガネと前髪が邪魔で全体分からないのよね〜!」
「実は男前っぽくない!?何で隠してるのかしら・・・?」
そうでしょそうでしょ!
男前のクセに隠してるんですよアイツ。
マスクもやっとで外したんだから・・・。
隠してるの絶対勿体無いと思うんだけど、まぁ事情があるみたいだし。
「「で!どうなのよ!見たの!?」」
また声が揃った。
良いコンビだよなーこの二人。
オレ押されっぱなしだよ。
「あー・・・悪くはなかったですよ。」
「「見たのねっ!」」
イルカだけずるいずるいと騒がれた。
その時扉が開いて、瓶底が顔を覗かせた。
「来月の予定表お持ちしました。」
なんて間の悪い・・・。
予定表を置いて立ち去ろうとする瓶底を二人が止めた。
「そんな急がなくても大丈夫でしょ!ちょっと休憩して行きなさい!」
「ほら座って!今コーヒー入れるからさ!」
強引にオレの横に座らされて、瓶底は困ってこっちをチラチラ見てた。
そんな縋る様な目で見られても・・・。
すまん・・・オレもこの二人には敵わん。
「ね、ね、瓶底先生ってば、最近いいひとでも出来た?」
「えっ!?そ、そそそんな人出来てません・・・!」
「あら、そうなの?最近楽しそうだからてっきり!」
紅先生に詰め寄られて、瓶底はオレに視線を寄越しながらアタフタしてる。
そこへコーヒーを持ったアンコ先生も戻って加わった。
「いいひとじゃないんだー。じゃ、何で最近マスク外してるの?」
二人共興味津津で身を乗り出した。
「そ、それはその・・・。」
コーヒーに口を付けながら瓶底が答えようとするのを遮って、
「「メガネも外しちゃいなさいよー♪」」
また声を揃えて紅先生とアンコ先生が瓶底に詰め寄った。
二人共実に楽しそうだ。物凄く楽しそうだ。
「いいじゃない!イルカには見せたんでしょ?」
「減るもんじゃあるまいし!」
ジリジリと壁に追い詰められて、瓶底は声を震わせながらオレに助けを求めた。
「イ、イル、イルカせん・・・!イルカ先生!」
真っ赤な顔をして今にも泣き出しそう。
・・・仕方無い。最終手段だ。
「あー・・・お二方。怯えてるじゃないですか。新しい男の先生いじめてたって旦那様にチクっちゃいますよ!」
そう言うとピタっと動きを止めた。
「嫌なこと言うわねー!」
「そんなの痛くも痒くもないし!」
フンっと鼻を鳴らして威嚇して来たけど、オレは知ってる。
二人共いつも強気でカカア天下っぽく振舞ってるけど、何だかんだ言って本当は旦那さんを大事に思ってて、弱みでもある。
旦那さんに悪いイメージを持たれるのは嫌らしい。
覚えてろよ、とキツイ視線をオレに送りつつ二人は引き下がった。
うぅ・・・こえぇ。暫くいじめられるなぁ・・・オレ。
「仕方無いわねぇ・・・イルカは特別なのね!」
漸く解放されて、瓶底はそそくさと腰を上げた。
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ひぃぃ・・・瓶底三ヶ月振り!
アンコさんと紅さんのコンビが好きです♪
男を尻に敷きそうな感じが(笑)。
ご覧頂きありがとうございました〜!
'07/4/30 葉月