瓶底先生 18

 

 

 

 

 

瓶底が帰った後、また少し熱が上がった。

平熱が低い方なので、今の状態はかなり辛い。

体を動かすことも億劫で、ただ寝てるだけしか出来なかった。

考えるのは瓶底のことだけ。

アイツの優しい声が耳に残っている。

手の感触が取れない。

触れられた箇所が、ずっと熱い。

「く、っそ・・・!何でこんなに・・・好きなんだよ・・・っ!」

呟きと共に吐き出される息が酷く熱い。

オレは熱に魘されながら何度も呟いた。

「好きだ・・・好きだ・・・!」

また涙が溢れる。

瓶底への気持ちで胸が苦しい。

熱の所為で体が苦しい。

辛くて辛くて、どうにかなってしまいそうだった。

「う・・・っ。どうすりゃいいんだよ・・・。」

一晩中、涙は止まらなかった。

 

 

 

 

 

翌日には嘘のように熱も下がって、体は楽になっていた。

一晩泣いたから目が重い。

「う・・・わぁ。ひでぇ顔・・・。」

随分汗を掻いたから風呂に入ろうと、洗面所で自分の顔を見て驚いた。

とても人には見せられない顔をしてる。

湯船に湯を張って、ゆっくり風呂に入ることにした。

一晩経って、気持ちも大分落ち着いたと思う。

これからのことを考えた。

「好きになっちまったもんは仕方ないよなぁ・・・。」

昨晩の熱が嘘だったかのように、冷静に考えられる自分に驚く。

瓶底にはハナちゃんがいる。

だからと言って、気持ちを変えることなんて出来ない。

それでも好きになってしまったのだから・・・。

この想いは自分の中で消化するしかないのだ。

「認めた途端に失恋かぁ〜切ない・・・。」

自分の気持ちを認めて、色色考える余裕が出て来た。

男同士。

瓶底にはハナちゃん。

障害が多くて諦めるしかない自分の気持ち。

「どうしようもない・・・よなぁ。」

本当にどうにもしようがない想いだ。

気持ちを伝えたところで瓶底を困らせるだけ。

瓶底は優しくていいヤツだから、きっとオレの気持ちを考えて、変わらない態度を取ってくれるだろう。

けれど、それを伝えてしまったら今の関係は必ず壊れる。

瓶底に無理をさせてしまう。

それは嫌だった。

アイツを困らせたくはない。

男に告白されて喜ぶ男はいないと思う。

ましてハナちゃんとの関係もはっきり知らされていないのだから、付き合ってるのだったらオレの気持ちなんて重荷以外の何でもない。

好きなヤツを困らせたい人間なんていないだろう。

あの笑顔を曇らせるのは嫌だと思った。

笑顔を向けてもらえなくなることが怖くもある。

結局、この気持ちを押し込めて、自分が今まで通り接するしかないのだと悟った。

そうすれば何も変わらない。

今まで通りの友人関係を続ければ問題はない。

自分が気持ちを押し殺しさえすれば、何も変わることはない。

考えても考えても、他に選択肢は見付からなかった。

もし、もっと早くに気付いて認めていれば、今とは何か変わっていただろうか。

「・・・バカバカしい。」

今更たらればの話をしても仕方がない。

その考えを止めようと、湯船の中に頭まで沈めた。

長時間湯に浸かっていたから、皮膚がふやけそうだ。

頭と体を洗って風呂から出た。

たっぷり湯に浸かったからすっきりした。

体も昨晩に比べればかなり軽い。

髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、携帯電話が鳴った。

瓶底だ。

今日は出勤のはずだから、仕事が終わって掛けて来てくれたのだろう。

きっとオレを心配して。

心臓が大きな音を立てる。

『イルカ先生?具合どうですか?』

一言目がそれだった。

優しい言葉で心配されて、嬉しい。

自然に笑みが浮かぶ。

やっぱりコイツは優しくていいヤツだ。

やっぱりコイツのことが好きだ。

「熱も下がったし大丈夫。さっき起きて風呂入って来た。久し振りにこんな時間まで寝てたよ。」

『良かった!オレ今仕事終わったんで様子見に寄ろうかなと思って。何かいる物とかあったら買って行きますよ?』

「ありがとう。もう元気だから大丈夫。カカシ先生も疲れてるだろうし帰って休んで下さい。」

『・・・ほんとに?無理してません?』

「平気平気!もう飯食って寝るだけだからさ。明日も一日寝てるつもりだし。」

『そうですか・・・。あの、もし何かあったら連絡して下さいね!夜中とかでも大丈夫だから!』

「うん。ありがとう。気ぃ遣わせてごめんな。」

嬉しかった。

自分も仕事帰りで疲れてるのに、オレを心配してくれて様子を見に来ると言ってくれて。

本当は顔が見たかった。

でも、理性がそれを止めた。

心配させないように、なるべく明るい声を出すように努める。

瓶底は最後まで心配そうにオレを気遣ってくれた。

「本当にありがとう、カカシ先生。また休み明けに。」

そう切り上げ、電話を切った。

 

 

 

 

 

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今回はちょっと短め。
ご覧頂きありがとうございました〜!

'10/2/9 葉月

 

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