瓶底先生 15
休み明けの朝、出勤途中で瓶底に声を掛けられた。
「イルカ先生!おはようございます。お友達大丈夫でした?」
「あ、うん。大丈夫。ご飯無駄にしちゃってすみません・・・。」
良かった。普通に話せた。
正直気まずいから会いたくないって思ってたけど、ちゃんと目を見て話せてホッとした。
「平気ですよ。オレがちゃんと全部食べますから。」
ニコっと笑顔を向けられて罪悪感が募る。
嘘を吐いたことが心苦しい。
「本当にごめん・・・。」
嘘吐いてごめん。
「そんなに謝らないで下さいよ。ほんとに大丈夫ですから!次は一緒に食べましょうね!」
本当にいいヤツ・・・。
それに比べてオレは酷い嘘吐きだ。
保育園までの道がヤケに長く感じた。
それから三日後の仕事帰り、瓶底の家に寄った。
日曜に嘘を吐いて帰ったから、それの埋め合わせのつもりだった。
ピアノの練習をして、一緒にご飯を食べようとオレから持ち掛けた。
こないだの侘びに飯代はオレが出すから。
そう言って誘うと、瓶底は嬉しそうに笑って頷いた。
ほんの少し前までこんな笑顔を見れたらオレも嬉しくなれたのに、今は何だか複雑な気分だ。
丁度上がりの時間が同じだったから、待ち合わせて一緒に帰った。
今までは楽しみで仕方なくてウキウキしてたのに、妙に気が重い。
それでも、隣で瓶底が楽しそうに笑うから、調子を合わせて無理矢理笑顔を浮かべる。
しんどい。
どうにか誤魔化して笑うけど、今はコイツの隣にいるのがしんどい気がする。
今までこんなことは無かったのに。
自分から誘ったのに。
オレは何で無理に笑ってるんだろう。
理由ははっきりしている気がしたけど、深く考えないようにして自分の気持ちから目を逸らせ、気付かないふりをし続けた。
瓶底の家に着いて早速ピアノの練習を始める。
隣に立っている瓶底が気になって、何だか落ち着かない。
オレは熱心に楽譜を見ている風を装っていたけど、何処か上の空だ。
さっきから瓶底のことばかり考えていて、頭の中がいっぱいだ。
今のオレはおかしい。
そんなオレの様子に気付いたようで、心配そうに声を掛けられた。
「イルカ先生大丈夫?何か元気なくないですか?」
「え、何が?元気元気!オレは元気ですよ!」
空元気を出してオレは瓶底に向かって笑い掛ける。
瓶底はまだ何か言いただったけど、少し笑ってそれ以上何も言わなかった。
居心地が悪い。
二人の間に変な緊張感がある。
静かなのが気まずくて、オレは必死でピアノを鳴らし続けた。
「あの・・・お友達、ほんとに大丈夫だったんですか?」
瓶底が遠慮がちに聞いてきた。
オレに気を遣っているのが分かる。
友達のことが心配で元気がないとでも思ったのかもしれない。
「あー・・・うん。詳しくは話せないけど大丈夫。」
嘘なんだから何もあるわけない。
オレはまた嘘を吐いている心苦しさで、瓶底を見れなかった。
激しい自己嫌悪に襲われる。
ピアノに集中しようと意識を強引に楽譜に向けたその時、
「あ、イルカ先生。そこ運指法違ってます。ここで指かえた方が・・・。」
瓶底はそう言いながらオレの上から手を重ねて動きを止めた。
一瞬息が止まった。
胸が苦しい。
動悸?
心臓の動きが速くなったのが分かる。
思わず手を引っ込めてしまった。
「あ・・・ハラ減ったなぁ!そろそろご飯食べましょっか!」
必要以上に声を張り上げて慌てて立ち上がった。
瓶底は何も言わずにオレの後に続く。
ドキドキする。
体が熱い。
瓶底の顔が見れない。
何だよ・・・コレ。
オレは一体どうしちゃったんだ。
その後のことはあんまり覚えていない。
テレビを見ながら一緒に飯を食って、それから逃げるように帰った。
瓶底はどんな表情をしてたっけ。
全く思い出せない。
目を見て喋ってると顔に熱が集まって、全身が熱くなってきて・・・。
オレはまともに瓶底の顔を見れなかった気がする。
「最悪だ。こないだの埋め合わせのつもりだったのに・・・オレめちゃめちゃ感じ悪かったよな?」
お詫びと言いながら瓶底に気を遣わせて。
一緒に飯を食っているのにまともに顔も見ないで。
オレは何をやってるんだ。
「オレって最低・・・。」
その夜、夢を見た。
口に出して言えないくらい、思い出すことさえ悪い気がするくらい、生生しくていらやしい夢。
罪悪感しか残らないような夢だった。
→16★次のページに書いてある注意書きをよーく読んで下さい!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の16は注意書きをよーく読まれてからご覧になって下さい。
16は読まなくても大丈夫なように作ってありますので、苦手な方は絶対にご覧にならないで下さいね。
よろしくお願いします!
ご覧頂きありがとうございました〜!
'09/12/9 葉月