瓶底先生 1
木の葉保育園ではみんな下の名前で呼ばれる。
例えばオレは「イルカ先生」
園長は「ツナデ先生」
この人だけはもう一つ名前があった。
今年新しく入った、はたけカカシ「カカシ先生」
こうも呼ばれていた。
「瓶底先生」
瓶底先生はオレと同じ男性保育士だ。
今まで男はオレ一人だったので、新しく男性保育士が入って来る、と聞いて楽しみにしていた。
仲良くなれるかな、男同士飲みに言って愚痴ったり出来るかな、なんて夢も見てた。
だけど・・・。
現実は厳しいものだった・・・。
とにかく暗い!良く言ったらおとなしい・・・。会話が成り立たない。人と目を合わさない。っていうか顔がわかんねぇ!!!
「瓶底先生」なんてあだ名を付けられるくらいだから、瓶底眼鏡をかけてるんだけど、その上マスクも装着しちゃってるから怪しさ爆発だ。
最初は「カカシ先生」って呼ばれてたけど、ある保護者が「すごい瓶底眼鏡ね」なんて子供の前で言ったもんだから、「瓶底先生」が定着してしまったのだ。
本人も嫌がらないので、子供から保護者から、今では職員までにも「瓶底」って呼ばれてる。
常にマスクを付けているのが不思議で、ある時思い切って聞いてみたら、
「花粉症なんですよ。」
って答えが返って来たけど、・・・もう6月ですよ?
6月に「花粉症で〜」ってマスクしてる人、今まで回りにいなかったなぁ。珍しいですね。ふ〜ん・・・。
まぁ、花粉なんて年がら年中飛散してるもんだし?イネ科花粉にも反応する体なんだ・・・ってことにしておいてやろう。
それはさて置き、瓶底は保育士としてはとても優秀な人物だ。成績は素晴らしい物だったらしい。
歌も上手いしピアノも上手。手先も器用で腰も軽い。
子供と接する姿を見ていると「子供が大好き」オーラが出てて、子供の受けも良かった。
サポートに入ってもらうとよく解った。
オレとは正反対の温厚な性格に柔らかい物腰。
・・・子供に対してだけは。
何で大人に対してはそんな挙動不審なんだよ!!!
オレだけでなく、他の職員に対しても同じ。
吃る、きょどる、黙り込む。
保護者にはなんとか営業用の対応はしてる。愛想は皆無だが・・・。
大人を前にすると落ち着きがなくなるように見えた。
正直に言うと、こういうタイプは苦手なんだよ・・・。ぶっちゃけ嫌いなんだよぅ・・・。
打っても響かないっての?
ほんと何考えてるのか解らないから、どう接していいかわかんないんだよ。
慣れない職場で緊張してるだけ?
綱手先生には「よろしく指導してやってくれ」って押し付けられた。
同じ男同士、綱手先生の配慮だったんだろうけど・・・こいつは難儀だぞ・・・・・・。
オレの担当は1歳児クラスのバラ組。紅とアンコという女性二人と一緒に担任している。
瓶底は担任は持たず、日によって色んなクラスのお手伝いに行くフリーの先生だった。
他の担任が休みの時、散歩する時等々、お手伝いに来てくれるんだ。
だから、毎日顔を合わせて働かなきゃいけないわけではないんだけど。
サポートに入ってくれる時がなぁ・・・気まずい。
子供たちと給食を食べて、後片付けをして、お昼寝タイム。
寝かしつけたら保護者への連絡ノートを書いて休憩時間だ。
コーヒーを入れておかしを食べながら世間話をする。・・・一方的に。
こいつは絶対自分から話し掛けては来ない。
話しを広げようともしない。
「そうですね〜」「うんうん」「はい」
相槌はマメに打ってくるが本気で聞いてんのか?
くっそ〜〜〜ハラ立って来た!
何でこっちがこんなに気ぃ使って話し掛けなきゃなんないんだよっ!
てか、オレ先輩だぞ!?
オマエも気ぃ使えっての!
もういい!退屈な世間話なんて止めだ!
もう一人の担任が席を外している所為もあって、その場は静まり返った。
結局すぐに子供が起きて来て、その後は一言も交わさなかった。
ある日事件は起こった。
散歩中に立ち寄った公園で、子供が5針も縫う大怪我をしたのだ。
丁度瓶底がサポートに入っていた日で、その子は瓶底の目の前ですべり台から落ちた。
オレも瓶底も落ちる姿を見ていた。
オレは呆然と立ち尽くす瓶底を怒鳴りつけた。
座り込んで額から血を流し、泣き喚く子供を抱え、タオルで圧迫止血をする。
「瓶底!紅先生呼んで来いっ!」
焦って叫ぶオレの声にびくっと一瞬震えたものの、瓶底は動かなかった。
ちっ!と舌打ちをして首を回すと、騒ぎを聞きつけた紅先生が走って来るところだった。
その後は園に連絡をし、オレは慌てて迎えに来た園長と車で近所の総合病院へ向かい、紅先生と瓶底は皆を連れて園に戻った。
病院から帰りの車中、オレは園長にずっと溜めて来た気持ちを吐き出した。
もちろん瓶底のことだ。
今日の失態はもちろん報告しなければならないし、対人関係でも問題があるようにしか思えなかったから。
木の葉保育園に来て、もう2ヵ月以上経つというのに、人間関係が全く築けていない。
オレだけにじゃない、誰に対しても距離を置こうとしているように見えた。
人間性に問題のある人物なら、もっと人生経験豊富で面倒見の良い、ベテランの先生に指導させたらいいんだ。
なんでオレに預けたのか。
オレだってまだ保育士になって3年も経ってないんだ。
自分のことも少し余裕が出来たくらいなのに、他人の面倒まで見ていられない。
一気に捲くし立ててふと窓の外を見ると、もう園付近まで戻っていた。
泣き疲れてチャイルドシートで眠る子供を振り返ると、瓶底に対する怒りがまた噴出して来た。
「カカシ先生の手が届いていれば、この子はこんな怪我しなかったかもしれないんです。すぐ傍に居たのに・・・。」
何で動けなかったんだ。あんなに近くにいたのに。
ピーピーと音を立てながら、車が駐車スペースに入り込んだ。
「・・・・・・イルカ。気持ちは解るが、もう少し長い目で見てやってくれ。」
ギアをパーキングに入れ、綱手先生はこちらを見た。
「私からは詳しく言えないが、あの子は過去に色々あってね・・・。同じ男同士だったということもあるが・・・。」
そこで言い淀んだ。
目が逡巡しているように見えた。この先を口にするべきか、否か。
「またゆっくり話せる時間を作ろう。今日はすまなかった。」
そう言って頭を下げられると何も言えなかった。
その日の帰り。
瓶底と上がりの時間が一緒だったので、当然園を出る時間も同じだった。
オレは徒歩で通っているが、瓶底はチャリンコ。
「お疲れ様でした。」
と声を掛け門を開いたが、返事の声とチャリンコを出す後ろ姿があまりにも落ち込んでいたので、思わず気になって立ち止まってしまった。
元元纏ってる暗い空気が更にどんよりしてる。人魂まで背負ってそうな雰囲気だよ・・・。
落ち込んでいるのはオレも一緒だし、オマケにオレは瓶底にハラも立ててた。
でも、こいつは保育士として働き出してまだ2ヵ月と少し。オレは今年で3年目。
先輩としての義務感っての?
園長にも言われたことだし、広い心で接してやらなきゃ!
元来体に染み込んでいたお節介魂がムクムク沸き起こって来た。
「カカシ先生。この後時間ある?ちょっと付き合ってもらえません?」
いい機会だ。酒でも飲んで「はたけカカシ」という人間を探ってやろうと思った。
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初パラレルですv
もいっこの書きかけパラレル放置して新しく妄想始めてしまいました〜パラレル楽し〜♪
色々細かいことに突っ込みはナシの方向でよろしくお願いします・・・f^_^;
てか、・・・「綱手」様は下のお名前で合ってました・・・よね?
間違ってたらすんません・・・ひ〜!
切っ掛けは美容院で眼鏡を外すお姉さんを見たことでした。
眼鏡を外すと美人っていう少女マンガの王道を妄想してしまいまして・・・(笑)。
カカシ先生眼鏡とるとこまで行きたかったんですけど、長くなって来たので切りました。
ちょこっと続きますので、最後までお付き合い頂けると嬉しいですvvv
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
'06/2/14 葉月