リーマンカカイルでっす!
お嫌いな方は回れ右でお願いします!

 

 

 

 

 

'09/5/26(前)

 

 

 

 

 

初めは「何だコイツ」って思った。

週末の最終間近。

混雑する快速電車に乗り込んで、奥へと足を進めたら、その男は居た。

対面式で四人座れる座席の端っこで座っている。

通路側で座っていたのだけど、足を組んで眠りこけてた。

またその足が長いもんだから、その男の前の席は空いていたのに座れやしない。

周りで立っている人間も、チラチラ様子を伺いつつも動かない。

声掛けて足下ろしてもらえばいいのに。

オレはちょっと怖かったけど、意を決して声を掛けた。

何だコイツ。こんなマナーのなってないヤツは許せん!

でも内心ちょっとビクビク。怖いヤツだったらどーしよ。

「・・・すみません。足下ろして貰っていいですか?」

肩を軽く叩きながら頼んだ。

その男はビクって顔を上げて慌てて姿勢を正した。

「あ!すみません。寝ちゃってて気付かなくて・・・。」

あら。態度のでかいマナーのなってないヤツではなかったみたいだ。

正直ホッとして、前の席に腰掛けた。

その男は相当眠かったようで、また項垂れて舟を漕ぎ始めた。

一度は正した姿勢もゆっくり崩れて、上体を揺らしながらシートに沈んでいく。

ケツがずれてずれて・・・あ〜足がこっちにじりじり近付いて来てるよ。

参ったなぁ。座らなきゃよかった。

電車が揺れる度、オレの膝にその男の膝が当たる。

何か気まずい。

男は何度か顔を上げて謝って姿勢を正したけど、また眠ってしまって同じことの繰り返し。

・・・よく電車でそんなに眠れるなぁ、ってオレはちょっと呆れながら駅に着くのを待った。

あと十数分の我慢だ。

目的の駅に着いて、電車が揺れて止まった時、男が慌てた様子で顔を上げた。

窓の外を見て駅名を確認しようとしたみたいだ。

オレはここで降りて普通電車に乗り換える。

腰を上げたら男と目が合ったから、駅名を教えてやった。

オレって親切〜。

男は「ありがとう!」と言いながらオレの後ろにくっついて電車を降りた。

何だ、同じ駅だったんだ。

ホームで普通電車を待ってる間、男はオレの隣に並んでいた。

頻りに欠伸をしてフラフラと眠そうにしている。

「大丈夫ですか?」

電車が着くまであと数分。

手持ち無沙汰だったので声を掛けてみた。

この調子だとフラフラしながら線路にでも落ちそうで、少し心配になった。

大丈夫かコイツ。

「いや〜かなり寝不足の上に酒入ったら眠くて眠くて・・・。」

「あぁ、飲んだ帰りですか。オレもなんですよ。」

オレも同僚と飲んだ帰りだった。

「確かに寝不足で飲んだら目茶苦茶眠くなりますね。」

「会社の飲み会に引っ張られちゃって・・・早く帰るつもりだったのに結局こんな時間になっちゃって。あぁ・・・眠い。」

欠伸を噛み殺しながらそう言う。

「あ、さっきはありがとうございました。」

「え?」

「駅教えてくれて。あと、足組んじゃってた時はすみませんでした。」

「あぁ、そんなこと別にいいんですよ。大したことじゃ・・・。」

改まって礼を言われてくすぐったかった。

意外といいヤツなのか?

その時電車が到着して、男と一緒に乗り込んだ。

快速電車とは違って、普通電車はかなり空いてる。

男が扉近くで立ったままだったので、何となく隣で一緒に立ったままでいた。

「座らないんですか?」

「一駅だし、座ったら寝過ごしてしまいそうで・・・。」

といいつつ、扉に凭れてもう目を閉じてる。

鞄を胸に抱えて扉に凭れて目を閉じて。

いい大人のでかい男がそんな子供みたいな仕草をする。

それが妙にいじらしいというか何というか。

そんなに眠いのか・・・。

その姿を見てたら、一分一秒でも早く布団に入れてやりたいって思ってしまって、何か笑えた。

そうこうしてる間に駅に着いた。

男は眠そうに目を擦りながら電車を降りた。

「ありがとう。さよなら。」

降りる寸前に、こちらに向かって微笑みながら言った。

そのはにかんだような笑顔がとても魅力的で。

優しい笑顔だった。

その顔に傷跡があることに、その時初めて気が付いた。

返事をする間もなく扉が閉まり、電車は動き出す。

あの人は無事に帰れただろうか。

そう思いながらオレは次の駅で降りた。

家までの道すがら、その男のことばかりを考えていた。

 

 

 

 

 

それから数週間後。

偶然またその男に会った。

仕事帰りの電車の中で目が合って、「あ!」ってお互い声を上げた。

「こないだはどうも。」

軽く会釈をすると、男は前と同じ優しい笑顔を浮かべる。

「無事に帰れました?」

「いやーははは。迷惑かけちゃってすみませんでした。帰って風呂にも入らず寝ちゃいました。」

起きたら昼でした、と言って、苦笑しながら頭を掻いた。

かなりの男前なのに、仕草は妙に可愛らしいところがある。

そう思った。

仕事の話とか世間話とかをしながら電車内での時間を過ごし、また普通電車に乗り換える為に同じ駅で降りた。

その待ち時間に名刺交換をして、お互い名乗った。

「遅くなりましたが・・・はたけカカシと申します。」

そう言いながら差し出された名刺を受け取る。

「あ、会社凄く近いですね!」

名刺に印刷された住所はオレの会社のご近所さんだった。

駅を挟んで逆方向だけど、最寄り駅は同じ。

住んでる所は一駅隣で。

勤務先も近くて家も近い。

そんな偶然に何だか嬉しくなった。

はたけカカシと名乗った男も笑って言った。

「ほんとだ。凄い偶然ですねぇ。お住まいはどちらで?」

そうだ。男は先に降りたからオレが一駅隣に住んでることは知らないんだった。

「オレははたけさんの一駅先なんですよ。」

「えぇ!?すっごい!何か運命感じる偶然ですね!」

無邪気に笑って嬉しそうに言う。

普通電車に乗っている間もずっとそんな調子で。

ほんとに楽しそうに喋る。

この人・・・素直で可愛いなぁ。仕草とかもだけど、笑顔も可愛い。

初めは「何だコイツ」だったのに、一気に好感に変わった。

「じゃぁ、また。見かけたら声掛けて下さいね。」

笑顔でそう言い残し、はたけカカシは電車から降りていった。

またこんな偶然があるだろうか。あったらいいなぁ。

そんなことを考えながら、オレは一駅先で電車を降りた。

 

 

 

 

 

 →(中)

 

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またもリーマンでイル誕小話v
私ほんとリーマンばっか作ってるなぁ・・・だって好きなんだもん(笑)。
まだちょっと早いですが、イルカ先生誕生日おめでと〜(^-^)
誕生日当日には終われるように頑張ろー。
拍手ありがとございました〜!

'09/5/9 葉月