'09/5/26(中)

 

 

 

 

 

次の偶然は思った以上に早く起こった。

仕事帰りに電車を待ってる時、ポンっと肩を叩かれて、振り向いたらはたけカカシが立っていた。

前回の偶然から2、3日後のことだ。

その日も電車に揺られながら世間話をして、ではまた、と言って別れて。

そんなことが数回あって、ある晩のこと。

その日は週末で、仕事帰りに飲み会があって、また終電ギリギリで帰った。

その電車に、はたけカカシも乗っていた。

「凄い偶然・・・。」

小さく笑いながらそう言った。

お互い飲んだ帰りで、また同じ電車に乗って。

初めて会話した夜と同じ状況だ。

示し合わせたわけでもないのに。

「最近ほんとよく会いますねぇ。」

「ね。今までもすれ違ったりしてたんですよ、きっと。でも、嬉しい偶然だなぁ。」

アルコールが入っている所為か、はたけカカシは普段より上機嫌だった。

普通電車を待っている時、もう少し飲まないかと誘われた。

「今日は何だか飲み足りなくって。前に土産で貰った地酒があるんですけど、一人じゃ飲み切れないからまだ開けてないんですよ。」

もしよかったら、と付け加えて、家で飲もうと誘われた。

ちょっと迷った。

電車で顔を合わせるだけの関係。

友達と呼ぶには浅すぎる関係。

いきなり家に上がるのは如何なものかと。

でも、正直嬉しかった。

誘ってくれたということは、一緒に飲みたいと思ってくれたってことだ。

自分なら家に上げてもいいと思ってくれたってことだ。

深い間柄じゃなくても、好意を向けられたら嬉しい。

「ご迷惑でなければ・・・。」

気付いたらそう返事をしてた。

「やった!」

はたけカカシは嬉しそうに笑った。

「あ、でも・・・電車なくなっちゃいますよね?」

「平気ですよ。タクシー使ってもしれてるし。一駅くらい歩こうと思えば歩けます。」

そう言うと、はたけカカシはあの優しい笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

一つ手前の駅で降りて、二人並んで歩く。

電車の中とホーム以外で話すのが初めてだから、何だか妙に緊張した。

はたけカカシの家は駅から5分も歩かない場所にあった。

「お邪魔しまーす・・・。」

遠慮がちに玄関に足を踏み入れたら、

「そんなに小さくならなくても・・・。」

と、少し笑われた。

いやいや、他人の家に初めて上がる時は緊張するって!

リビングに案内されて、テーブルの前に座るように促された。

「酒持って来るからゆっくりしてて。」

はたけカカシはそう言って奥の部屋に消えた。

その間、オレは手持ち無沙汰だったから、途中のコンビニで買ったおつまみをテーブルの上に広げておいた。

「あ!あの時おつまみ買ってくれてたんだ。」

そう。酒をご馳走になるんだから、オレも何か手土産を、と思って大急ぎでコンビニで調達したのだ。

「すみません。何か気を遣わせちゃって・・・。」

「こんなの当たり前ですよ。飲み場所と酒提供してもらえるんだから!」

申し訳なさそうに言われたから、慌てて言った。

お互いに気を遣い過ぎてるのが可笑しかった。

「じゃ、乾杯しますか!」

グラスを合わせて、本日二度目の酒宴を始めた。

「うみのさんは日本酒好きですか?」

「えぇ。大好きです。」

「じゃ、ガンガン飲んでって下さい!オレも飲めるんだけど、そんなに好きじゃないから。」

「お言葉に甘えて・・・。」

かなり楽しい時間だった。

酒を酌み交わして沢山喋って。

お互い知らないことだらけだから話題は尽きない。

だから、深酒が過ぎた。

12時を跨いで次の日になって、それから数時間。

何度か「そろそろ・・・」とお開きにしようと声を掛けたけど、引き止められてズルズル時間が過ぎて・・・。

二人共相当酔ってた。

しょーもないことでも馬鹿みたいに笑って、呂律も怪しくなってきて。

「ヤバイ・・・オレかなり酔ってる。帰れるかにゃ・・・。」

「『かにゃ』!?『にゃ』って!あはははっ!」

「あはは!ちょっと間違えちゃったにゃ!」

「ぶっ!はは!うみのさん面白いなぁ〜気に入っちゃった。」

はたけカカシは、それは楽しそうに相好を崩して言った。

「絶対また一緒に飲みましょうね!」

「えぇ。是非!」

じゃ、この辺で・・・と腰を上げようとしたら、

「えー!もう帰っちゃうの?本当に?もうお開きー?」

唇を尖らせて、子供みたいに駄駄を捏ね始めた。

その姿を見て、ふと自分の幼い頃を思い出した。

「我が儘言わない。また次があるでしょ。」

ポンポン、と頭を優しく撫でて軽くキスを落とす。

オレが小さい時、拗ねたり怒ったりしたら母はこんな風に抱き締めてくれた。

大人の同じ男相手に、思わず母の真似をしてしまった。

はたけカカシは自分の頭に手を置いて、驚いたようにオレをじっと見詰めた。

「あっ!す、すみません。あの・・・う、うちの実家、スキンシップの激しい家でして・・・。」

慌てて言い訳をする。

「小さい頃からよくこんなことされてて、ハグとかキスとか当たり前の家だったんで思わず・・・。すみません。・・・怒ってます?」

「ううん。全然平気。・・・ステキなお家ですね。」

はたけカカシは優しく微笑んだ。

あの優しい笑顔だったけど、一瞬寂しそうに見えた。

「じゃぁ、さよならのハグしましょっか!」

楽しそうに声を弾ませて、はたけカカシは立ち上がった。

軽くハグをして、ちゅっと頬にキスされた。

「え?えぇっ!?」

オレが頬を押さえてあたふた驚いてたら、はたけカカシもあたふたしちゃって。

「あ、あれ。間違ってた?外国の映画とかこんな感じじゃなかったっけ?」

凄い勢いで謝られた。

あんまりにも謝るから否定しなかったけど・・・男同士で頬にキスはしない!

・・・多分。

 

 

 

 

 

その夜から、オレとはたけカカシの関係は少し深いものになった。

相変わらず電車で偶然会って声を掛けて、ってのは変わらなかったけど、週末の仕事帰りに待ち合わせて一緒に飲んだり。

家にも数回お邪魔した。

あの夜に変なことをしてしまって、ギクシャクしないか心配だったけど、杞憂だったみたいだ。

はたけカカシはすっかりハグが気に入ってしまったみたいで、毎回毎回会う度にハグされた。

ホームでされそうになった時はさすがに全力で止めたけど。

頬にキスも毎回付いてきて、訂正出来ぬままオレは受け入れていた。

無邪気に抱き付いてくるから拒否出来ないんだよなぁ・・・。

しかも嫌じゃない、ってのが困ったもんだ。

最近ではそんなはたけカカシが可愛いとすら思えてしまって。

「いや、実際可愛いんだよ。前から仕草とか可愛いなーって思ったけど、行動も・・・子供みたい無邪気に抱き付いてくるしさ。」

頭を抱えてブツブツ呟いてたら、はたけカカシが戻ってきて、怪訝な顔をした。

「・・・どうしたんですか?ブツブツ言って。何か悩み事?」

「いやいや!すみません。ただの独り言です!」

オレは慌てて手を振りながら答えた。

危ない危ない!無意識に口に出てたんだ。

本人に聞かれたら・・・こわっ!絶対怒られるよ。

「はい。氷入れてきましたよ。」

「あ、ありがとうございます!」

今日も例のごとく、仕事帰りに電車で会って、そのままはたけカカシの家にお邪魔しているのだ。

「次これ飲みましょ!」

そう言って梅酒の瓶をテーブルの上に置いた。

「最近梅酒がお気に入りで。よく買って帰るんですよ〜。」

「へー。そうなんですか。梅酒って飲みやすいですよね。」

「そうそう!寝る前とか一人で飲んでるんですけど、つい飲みすぎちゃって。今日はうみのさんがいるから一緒に飲めて嬉しいなぁ。」

笑顔でそんなことを言う。

な、何て素直な・・・。

そんなことを言われたら照れるじゃないか。

オレは顔が赤くなりそうだったから、それを隠す為に梅酒を呷った。

それから互いに酌をし合って飲んで、瓶が空に近付いた頃、はたけカカシが真剣な表情で言った。

「あの、折り入って話しがあるんですけど。」

「はい?」

「オレ達付き合いませんか?」

「は!?」

「オレ、うみのさんのこと好きになっちゃいました。」

「へ?好き?って・・・オレを?」

こくこくと頷いてはたけカカシは言う。

「うみのさんはオレのこと嫌いじゃないですよね?」

「そりゃ・・・まぁ。」

「好き、ではありませんか?」

「いや、好きは好きですけど、そういう好き・・・かなぁ?」

アルコールの所為で頭が回らない。

絶対嫌いではない。

嫌いな相手とこう頻繁に飲みたいとは思わないし。

かといって、恋愛感情での好きかというと・・・。

男同士だから、全くそういう目では見ていなかった。

じっとはたけカカシを見た。

整った顔をしている。

かなりの男前だと思う。

左目にある傷も、決してそれを崩していない。

その時、はたけカカシが微笑んだ。

あの優しい笑顔。

心臓がドキドキし始める。

「何か・・・ドキドキしてきました。はたけさんは・・・オレを見てドキドキしたりするんですか?」

「うん。します。」

真剣な表情で強く頷かれて、オレの心臓はより一層動きが速くなった。

「えー・・・っと。」

「あ、返事は今じゃなくてもいいですよ。ゆっくり考えて下さい。」

優しい言葉にホッとして、オレは帰り支度を始めた。

「今日は・・・もう帰ります。」

「うん。ごめんね。急に変なこと言って。」

「いえ・・・平気です。」

妙な空気のまま、玄関までお互い無言で歩いた。

ドアを開ける直前、恒例となったハグと頬にキスをされて、オレは胸が高鳴るのを感じて。

「付き合います。」

気付いたらそう言ってた。

はたけカカシは嬉しそうに笑って、

「ほんとに?」

オレをぎゅっと抱き締めた。

軽いハグではなくて、恋人にする強い抱擁。

「ありがとう。これからよろしくね。」

その夜、初めて唇にキスされた。

 

 

 

 

 

その日から恋人としての付き合いが始まった。

と言っても、相変わらず仕事帰りに飲みに行ったり家にお邪魔したり。

恋人になっても大きな変化は無かった。

キスの場所が唇に移ったくらい。

関係は今までと大差無かったけど、オレの気持ちは短期間で大きく変わった。

恋人としての付き合いが始まって、次に逢う日を心待ちにして毎日ワクワクしたり、逢ったら逢ったでドキドキし過ぎてまともに目を合わせられなかったり。

自分でも驚くくらい、急激にはたけカカシの存在がオレの中で大きくなった。

怖いくらいにはたけカカシへの気持ちが膨れた。

毎日でも逢いたいと思うくらいに。

オレは積極的に動いた。

仕事が休みの土日も逢いたくて、デートを申し込んだりもした。ほぼ毎週。

でも、忙しいらしく、未だにデートは出来てない。

・・・少し不満だ。

恋人と言っても名ばかりに思えて。

恋人らしいことと言えば、キスするくらい。

その先はまだだ。

別にやりたいだけ、じゃない・・・けど、好きな人に触れたいと思うのは自然なこと・・・だよなぁ。

はたけカカシはそんな風に思わないんだろうか?

オレをそういう風に好きでいてくれてるんだろうか?

少し不満で、少し不安。

そんな状態の付き合いが続き、時は流れて5月になった。

今月はオレの誕生日がある。

誕生日くらいは我が儘を言っても許されるだろうか。

 

 

 

 

 

 →(後)

 

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イル誕話なのにもう7月ーっ!
ウイルス騒ぎで更新控えてたので遅くなりました・・・(-_-;)
次で終わりです。
ご覧頂きありがとうございました〜!

'09/7/9 葉月

 

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