横顔
カカシ先輩の横顔はとてもキレイだ。
勿論正面から見てもキレイだけど、思い出すのは横顔ばかり。
そりゃそうだ。
普段見るのは横顔ばかりなのだから。
ボクが立つ位置はカカシ先輩の隣か後ろか。
ほとんどその二つなのだから仕方ない。
ずっとカカシ先輩を見ていた。
後ろから。
隣から。
長い間、ずっと追いかけている。
どれだけ恋焦がれていても、カカシ先輩がボクを振り返ってくれることはない。
カカシ先輩は何時も遠くを見ているから。
もうこの世にはいないあの人を想って、ずっと遠くを見ている。
振り向いて欲しくて、名前を呼ぶ。
それでも、カカシ先輩は遠くを見たまま。
「テンゾウ、何?」
何処か遠くを見たままだ。
カカシ先輩はこのまま変わらないんだろうと思っていた。
この人は一生過去に捕らわれたまま、今を見ることはないのだろうと。
そう思っていた。
いや、そう願っていたのかもしれない。
ある日突然それは変わった。
カカシ先輩はイルカ先生を見るようになった。
イルカ先生の隣で笑うようになった。
ボクがどんなに望んでも向けてもらえなかった笑顔を、イルカ先生だけには見せる。
あの人はボクが欲しくて堪らなかった物を、いとも簡単に手に入れたのだ。
どうにかなってしまいそうだった。
イルカ先生に憎しみとも呼べる感情を覚えた。
イルカ先生が妬ましい。
何故カカシ先輩は自分じゃなくイルカ先生を選んだのか。
そんな感情を抱く自分に嫌悪する。
二人の前で、その感情を押さえ込むのに苦労した。
ある時、イルカ先生に呼び止められた。
緊張した面持ちでじっとボクを見る。
「何かご用ですか?」
「不躾な質問かもしれませんが・・・お許し下さい」
視線を落とし、次の言葉を選んでいる。
心臓が大きく揺れた。
イルカ先生が何を言いたいのか、分かった気がした。
「もしかして・・・アナタもカカシ先生のことを?」
やはり気付かれていた。
必死に取り繕ってきたつもりが気付かれていた。
カカシ先輩ではなく、よりによってイルカ先生に。
「・・・だとしたら?先輩をくれるんですか?」
イルカ先生は一度も目を逸らさずにキッパリと言い切った。
「申し訳ありませんがそれは無理です」
「だったら何故聞くんです。放っておいてもらえませんか?」
「ただ・・・アナタがとても辛そうで・・・」
その瞬間、ハラは決まった。
イルカ先生と張り合っても仕方ない。
負けは決まっているのだから。
負けた相手に同情されるなんて真っ平だ。
「・・・冗談ですよ。イルカ先生はカカシ先輩の笑顔を守って。ボクは背中を守ります」
上手く笑えただろうか。
声は震えていなかっただろうか。
その時、この想いと決別した。
さようなら、カカシ先輩。
ボクではアナタを振り向かせることは出来なかったけれど、大好きでした。
アナタが笑って今を見てくれるならボクは・・・。
苦しいけれど、辛いけれど、ボクはアナタの傍に居る。
アナタの傍で、アナタの背中を守ります。
それだけは誰にも譲らない。
せめてアナタの背中を守れる強い人間でいる。
漸く笑顔を向けられる相手を手に入れたのだから、アナタのその幸せが永遠に続くことを願って。
今日もカカシ先輩の横顔を見詰め続ける。
おわり
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最初に考えたのがこれだったりします。
これじゃテンゾウが気の毒すぎると思ってボツにしたネタなのですが・・・結局やっちゃった(笑)。
Aさんに捧げた3つでした。
お粗末様でございました!
'10/3/15 葉月