5、勘違い
カカシとオレはご近所さんで、家族ぐるみのお付き合いだった。
物心ついた頃から、傍にはカカシが居た。
幼い頃のカカシはそりゃーもう可愛かった。
女の子みたいに可愛くて、オレよりも年上なのに、小さくて細くて華奢で。
泣き虫だったし、よく風邪を引いたりお腹を壊したり、弱弱しい子供だった。
会う度にお腹が痛いって言うから、ある冬の日、お揃いの腹巻をプレゼントしたらカカシは大喜びで毎日着けてた。
何年もオレがあげた腹巻をボロボロになるまで愛用してくれていたから、毎年冬には腹巻をプレゼントするのが習慣になった。
それを嬉しそうに受け取るカカシが可愛くて。
そうして何年もカカシと過ごす内に、オレはカカシを守ってあげたい、オレが傍に居なくちゃダメだ、なんて思うようになって来た。
互いの両親が死んでからも、支え合って生きて来て。
男だって分かっていたけれど、オレはカカシを好きで、ずっと傍に居たいと思っていた。
ずっと傍に居られるものだと思っていた。
こんな時間がずっと続くものだとばかり。
けれど、それは間違いだった。
別れの時はある日突然やって来た。
「オレ明日から長期任務に就くから。戻れるのはかなり先になると思う・・・。」
ある夜、玄関先で暗い表情のカカシにそう言われた。
オレはあまりにも急な話に驚いて、カカシの言葉を理解するまでに時間が掛かって。
「じゃぁ・・・さよなら。」
さよならと言われて漸く我に返った。
身を翻すカカシの腕を慌てて掴んで引き止めて、
「待って!そんな・・・さよならって!き、危険な任務なのか?戻って来るんだろ!?」
詰め寄って捲くし立てた。
カカシは悲しそうに顔を歪めて、弱弱しく首を振る。
「分からない。・・・もう会えないかも・・・しれない。」
カカシは涙を浮かべながらそう言った。
「オレ・・・オレ、行きたくない。イルカと離れたくない・・・!」
堪えきれずに泣き出したカカシを、思わず抱き締めた。
カカシはオレの胸にしがみ付いて泣き続ける。
オレもつられて泣きそうになったけど、何とか堪えてカカシを励ました。
一緒になって泣いてしまったら、きっとカカシはもっと行きたくないって気持ちで一杯になると思ったから。
そんな気持ちで任務に就いて、大きな怪我でも負われたら困る。
「待ってるから。オレ、カカシの帰りをずっと待ってる。だから絶対戻って来い!」
涙が沢山溜まった瞳を大きく見開いて、カカシがオレを見る。
瞬きする度にポロポロ零れ落ちる涙がキレイで。
その涙を拭ってやりながら告白した。
「オレ、カカシのことが好きだ。戻って来たらずっと一緒に居よう。」
まるでプロポーズみたいなことを言ったら、カカシは真っ赤になって一瞬固まっていたけど、その後笑顔になった。
「うん。オレも。オレもイルカのことが大好き。」
嬉しそうに笑って頷くカカシが可愛くて、可愛い唇にキスをした。
初めてのキス。
見様見真似のぎこちないキスを長く続けていたら、当然のように下半身が熱くなって来て。
オレもカカシも荒い息を吐きながらきつく抱き合った。
やりたい盛りの十代。
好きなヤツが目の前に居て、キスまでしてるんだから当然その先も欲しくなる。
手をつないで寝室へ移動した。
オレもカカシも何も言わなくて。
自分の鼓動だけが煩く耳に響く。
白い肌を赤く染め、恥ずかしそうに俯くカカシをベッドに押し倒した。
男同士の知識も無いままに抱き合って。
お互いに触れ合うだけの稚拙な行為で終わったけれど、普段は決して見ることのないカカシの姿に、妙に満たされた気分になった。
オレとカカシは抱き合って眠り、翌日は泣く泣く別れた。
カカシは絶対に戻って来る。
オレはずっと待ってる。
指きりをしながらそう約束した。
辛い別れからもう何年経っただろう。
オレは二十も半ばを過ぎ、アカデミーの教師として毎日を忙しく過ごしている。
カカシのことは一日たりとも忘れたことはない。
あの日の約束通り、恋人も作らずにずっと帰りを待っている。
寂しくて仕方ない夜には、あの時の可愛いカカシを思い出しては自分を慰めて。
あんなに可愛かったカカシだから、きっと誰もが振り返るような美人に育っているだろう。
毎日毎日、早く帰って来い、とカカシの帰りを首を長くして待つ生活が続いて。
再会の時は突然、何の前触れもなくやって来た。
カカシは何の連絡も無しに、夜中に突然オレの家に現われた。
玄関のドアをノックする音とカカシのチャクラを感じて、
「カカシ!おかえ・・・り?」
飛んで行ってドアを開けて、抱き締めようとガバっと広げた腕は、空中でその形のまま止まった。
抱き締めようと思ったのに抱き締められて。
「ただいま!戻って来たよイルカ!」
何度も何度も名前を呼ばれる。
何年ぶりかの待ちに待った感動の再会だというのに、オレは不意打ちを喰らって、カカシの腕の中でぼけっとされるがままでいた。
カカシの姿が思い描いていた物と違い過ぎて。
線の細〜い儚げ〜な別嬪さんになっていると思っていたのに、カカシは予想外に逞しく育っていた。
身長はオレよりも高くなっちゃって、体つきも立派な成人男性のそれで。
男の色気がある、誰が見ても男前と呼べる立派な男になっていた。
「で、かく・・・なったなーカカシ。」
オレを簡単に包み込む腕の中で、やっと出た言葉がそれ。
我ながら気の利かない台詞だと呆れる。
もっと感動的な再会を夢見てたのに。
「でしょ?オレ頑張ったもん!やっとイルカより大きくなれたよ。」
カカシはそう言って無邪気に笑う。
その笑顔は昔と変わらず可愛かった。
「これでイルカを守れるよ。これからはオレがずっと守ってあげるからね。」
オレはずっとカカシを守ってやらないと、って思ってたけど、カカシもオレに対してそう思っているみたいだ。
「ありがとーござい・・・ます。」
「何で敬語?」
カカシがクスクス笑いながらオレの頬を突く。
「や、だってカカシ別人みたいにでかくなってっから。もっとこう・・・華奢な姿を想像してたからさ。」
「何?今のオレじゃ不満?昔のオレのが好き?」
下から覗き込みながらそう問われて、カッと顔が熱くなった。
カカシの仕草や声が矢鱈と色っぽく感じて。
カカシはいい男になった。
「カカシ、お腹は?お前お腹弱かったろ?体も弱かったし・・・。」
「あぁ、もう平気。あの頃は早く大きくなりたくて毎日バカみたいに牛乳飲みまくってたから。」
「牛乳?」
「うん。早くイルカより大きくなりたくて、毎日嫌んなるくらい牛乳飲んでたの。」
そう言われてオレは思わず噴出してしまった。
そんな動機で毎日苦しい思いをしてたのかと思うと、カカシがいじらしくて可愛くて。
何年も経って図体はでかくなったけど、やっぱりカカシは可愛いままだ。
「カカシってば!そんな理由で腹壊しまくってたんだ!」
愛しくなって頭をグリグリ撫で回すと、カカシが拗ねた口調で言った。
「だって!早くイルカより大きくなってイルカを守れるようになりたかったんだもん!」
そんなことを面と向かって言われて照れ臭くなっちゃって。
照れ隠しにボリボリ頭を掻いてると、カカシにキスされた。
「イルカも変わったよ。カッコ良くなった。でも、笑顔は昔のままで可愛い。」
ちゅっと何度も音を立ててキスを繰り返す。
「イルカ浮気してない?」
「うん。」
「ずっと一人で待っててくれたの?」
「うん。ずっと待ってた。」
「逢いたかった?」
「うん。逢いたかった。凄く逢いたかった。」
「嬉しい。オレも凄く逢いたかったよ。ね、上がってっていい?」
そう強請られて部屋に入ったらいきなり押し倒された。
「しよ。」
めちゃめちゃキレイな顔で迫られて、オレもその気になって。
いちゃいちゃしながら寝室に場所を移して、いざコトに及ぶ寸前気付いた。
「ちょっと待て!オレが下!?」
オレは可愛いカカシのままを想像してたから、戻って来たら抱く気マンマンだったのに。
戻って来たカカシはオレを抱く気マンマンだ。
想像していたより随分男らしく育っているけれど、やっぱり可愛いしオレよりもキレイな顔してんだから、ここはオレが抱くべきだろう。
そう思って思いっきり抵抗したのに、カカシはガンとして譲らない。
「オレのが男らしいのに!」
「なーに言ってんの。イルカはこんなに可愛いのに。」
「可愛いのはカカシの方だって!」
「分かった分かった。オレの男らしさを存分に味わわせてあげますから!」
すったもんだの末、結局やられてしまった。
「辛かったら直ぐ止めるから。抱かせて下さい。お願い。」
そう強請られたら拒めなくて。
渋渋頷いた。
始まってみたら多少の痛みはあったものの、気持ち良さの方が強くて、オレはカカシの下で喘ぎまくった。
自分で自分が信じられないくらいのいやらしい声が出て。
そんなオレを見て、カカシは「可愛い可愛い」の連発だった。
「ね?オレ男らしかったでしょ?」
コトが終わってそんなことを真顔で問われて。
オレはぐったりしたまま頷いた。
「うん。オレのが男らしいなんて、えらい勘違いでした。ごめんなさい。」
カカシは満足気に微笑んで、
「愛してるよイルカ。ずっと一緒に居ようね。」
オレの頬にキスをした。
おわり
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原作の設定無視しまくって過去話やっちゃった☆
でもやっぱり大人の二人が好きですv
ご覧頂きありがとうございました〜!
'08/4/9 葉月