24、秘密の薬
ある日突然、イルカ先生の尻尾が無くなった。
昨日までは確かにあったのに。
「お疲れ様でした!」
第七班の任務が終了して、報告書を出しに行った時のことだ。
「報告書お預かりします!」
昨日までと何も変わらない、笑顔で元気なイルカ先生。
ただ、頭の上にあった尻尾がなくなって、髪が随分短くなっていた。
「・・・イルカ先生。髪切ったの?」
えらくバッサリいったもんだ。
ほぼ坊主な短髪になってしまっていた。
「そうなんですよ〜!」
あっはっは!と豪快に笑うイルカ先生は、普段より妙にテンションが高いように見えた。
何だか無理をしているようにも。
オレはそこでハッとした。
何かあったのではないだろうか?
だから髪をバッサリ切ったのでは?
・・・・・・失恋!?
いや、まさか。女の子じゃあるまいし。
「何かあったの?大丈夫?」
「え?・・・・・・いや、別に・・・。」
報告書から目線をオレに移したと思ったら、気まずそうに逸らす。
今の間はっ!?
何て分かりやすい人だ。
オレの大事なイルカ先生に何かあったのだ。
これは放っておけない。
「イルカ先生、今夜空いてる?良かったら飯でも食いに行きません?」
笑顔で冷静を装いながら誘ったけど、内心はあわあわでドキドキだ。
何があったの?何がアナタをそんなにしたの?オレに話してくれない?
今直ぐにでも聞きたかったけど、ぐっと我慢する。
「ほんとですか!?是非っ!」
イルカ先生は縋るような泣きそうな笑顔でそう言った。
あぁ・・・イルカ先生。何があったんですか。
そんなに弱弱しく笑うなんて。
オレが力になれることならいいけど。
オレに出来ることなら何でもしてあげるよ。
イルカ先生と一緒に居酒屋に入る。
個室に通してもらって、ゆっくり話しをすることにした。
「髪、変ですか?」
前置き無しにイルカ先生が話し始める。
やっぱり普段と違う様子。
「え?いや、エ○ザイルみたいでカッコいいですよ。・・・オレは前のイルカ先生のが好きだけど。」
「・・・好き?」
「ちが、そういう意味じゃなくて!えーっと、その、尻尾が可愛かったっていうか、あの髪型が好きって意味で。」
しどろもどろ。
変に誤解させるようなことを言ってしまった。
いっそこのまま告白してしまおうか。
「実はですね!今日はカカシ先生にお話があるんです!」
イルカ先生が姿勢を正しながら言ったので、気を取り直して話しを続ける。
「はい。何でも話して・・・。」
「オレ、カカシ先生が好きなんです!付き合って下さいっ!」
オレの返事を遮りながら言って、勢いよく右手を差し出す。
何だろうこの展開。オレが都合のいいように話を作っているんじゃないだろうか。
幻術にでもかけられてるとか?
オレは思わず「解!」と幻術返しをしてみる。
「・・・?カカシ先生?」
右手を伸ばして頭を下げていたイルカ先生が顔を上げた。
その顔は不安でいっぱいで、訝しげな表情。
「ご、ごめんなさい!イルカ先生幻術でもかけられてんじゃないかと思っちゃって!」
慌てて手を取って、ぎゅっと握る。
「イルカ先生正気だよね?本気で?ほんとにオレのこと好きなの?罰ゲームとかじゃなくて?」
空いた手をイルカ先生の顔の前でひらひらと振ってみた。
「嫌だなぁ〜!正気ですよ!そんな幻術かけて誰が得するってんですか!」
あっはっは!と豪快に笑う。
オレが得します・・・。
オレが知らない間に自分でかけたのかと思ってしまったではないか。
「いや〜実はですね、髪切ったのは願掛けみたいなもんなんですよ。」
つながっていた手を解いてイルカ先生は言った。
「知り合ったばかりでよく知らないオレにこんなこと言われて困るだろうな、とは思ったんですが・・・。」
イルカ先生はオレに一目惚れしたらしい。
それからナルト達に話を聞く度にどんどん好きになって、密かに恋心を抱えていた。
もっとオレを知って何時か告白出来たらと思っていたが、先日女性と話すオレを見て焦ったそうだ。
「あの時はこう・・・胸の内にメラっと嫉妬の炎が燃え上がりまして。指咥えて見てるよりは当たって玉砕だ!と・・・。」
あっはっは!と坊主頭をガリガリと掻きながら言う。
「髪は勢いつける為に昨晩思い立って切ったんです。今日誘って頂けて良かったです。早く言いたかったから。」
ふぅ〜と長く溜息を吐いて、
「聞いて下さってありがとうございました!」
深く頭を下げた。
オレはイルカ先生の告白を夢見心地で聞いていた。
夢みたいだ。自分に都合が良すぎて、現実じゃないみたいだった。
「カカシ先生?大丈夫ですか?すみません。突然変なこと言って・・・。」
目の前でパタパタと手を振られて我に返る。
「あ、ごめん。意識飛んでた・・・。」
脳内のお花畑まで。
手を握ってじっと見詰めた。
「嬉しいです。オレもイルカ先生が好きです。」
「え・・・・・・?」
「オレを恋人にして下さい。」
「う、そ・・・マジですか!?ほんとにっ!?」
「うん。マジマジ。オレもイルカ先生に一目惚れしてたんですよ。好きだったんですよ。」
「・・・信じられない。嬉しい!さっきの反応じゃ絶対玉砕だと・・・っ!」
頬を染めながら手放しで喜ぶイルカ先生が可愛かった。
オレも初めて会った時、イルカ先生の笑顔に一目惚れした。
その後もナルトから毎日のようにイルカ先生の話を聞いて更に好きになって。
もっと親しくなって何時か告白出来れば、とオレも同じように考えていたのだ。
まさに棚から牡丹餅。
何という幸せ!
「イルカ先生、髪触ってもいい?」
どうぞどうぞ!と頭を下げてくれたから、思う存分撫で回した。
ザラザラした感触が気持ち良い。
「これ、自分で切ったの?」
「はい!バリカンで!決意表明とでも言いましょうか・・・絶対告白するぞって意気込みです!」
「はは。男らしいなぁ!イルカ先生は可愛いねぇ。」
イルカ先生はボンっと顔を真っ赤にした。
「イルカ先生、キスもしていい?」
「は、はははいっ!ど、どうぞっ!」
真っ赤な顔で目をぎゅっと閉じたイルカ先生に、軽くキスをした。
それからぎゅっと抱き締めて、大好きですよ、と伝えた。
イルカ先生は頭に血が上っちゃったみたいで、暫く目を回してた。
そんなこんなで付き合うことになり、暫く経ったある晩。
イルカ先生の家で育毛剤を発見した。
「カカシ先生がオレの尻尾可愛いって言ってくれたから、また伸ばそうと思って。こういうの使った方が早く伸びるかな〜と思って!」
照れ臭そうに笑うイルカ先生をガバっと抱き締める。
毎晩育毛剤を頭に振りかけてるイルカ先生を想像したら可愛くて仕方なくて。
オレを全力で好きでいてくれてるんだな〜って嬉しくて愛しくて。
「もうっ!何でそんなに一生懸命なの。イルカ先生可愛すぎ!」
「だって、カカシ先生にずっと好きでいてもらいたいし・・・尻尾あった方が喜んでくれるのかな〜って!」
「・・・分かった。オレに任せて。あ、言っときますけど、今のイルカ先生でも十分好きだからね!」
翌晩、またイルカ先生の家を訪ねた。
手の平サイズの瓶に入った薬を渡す。
「これ、暗部の秘密の薬です。今晩使ってみて。」
「暗部の・・・って。大丈夫なんですか?オレなんかに渡して!」
「平気平気!後輩から貰って来ました。これ頭に塗ったら一晩で髪伸びるよ。」
実は半分脅して持ってこさせたんだけど。
イルカ先生は「秘密の薬」を使っていいのかと心配してたけど、オレが強引に使わせた。
イルカ先生がオレの為に、って望んでるんだから、オレだって協力したい。
オレだってイルカ先生を好きなんだから。
翌朝、泣きそうなイルカ先生の声に起こされた。
「カカシせんせぇ・・・。」
揺さ振られてやっと目が覚める。
「髪・・・こんなになっちゃったんですけど・・・。」
イルカ先生の髪の毛は、一晩で尻に届くくらいまで伸びていた。
「はは!これは景気良く伸びましたね〜。」
「笑い事じゃありませんよっ!」
表情を暗くさせて言う。
「一晩でこんなに伸びて・・・一生分くらい一気に使った感じじゃないですか。オレ、明日にでもツルッツルになったらどうしよう・・・。」
「大丈夫ですって。数ヶ月分を一晩で伸ばすだけの薬ですから!」
「ほんとに・・・?もしツルッツルになってもオレのこと好きでいてくれますか?」
あーもう!心配なのはそこか!何て可愛い人なんだ!
「それは絶対に大丈夫!ツルツルのイルカ先生でもオレは大好きですよ!」
ツルツルになったらオレもツルツルにしますよ、と付け加えると、イルカ先生は少し複雑そうな顔をして笑った。
おわり
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短髪のイルカ先生ってどんな感じだろーと思って作りました。
頭の形凄いキレイそうv
最後までご覧頂きありがとうございました!
'09/9/9 葉月