1、酔っ払い

 

 

 

 

 

苦しそうな呻き声が聞こえて目が覚めた。

薄暗い中で目に入ったのは、イルカ先生の丸まった背中。

胸の中に抱き締めて眠ったはずなのに、今はオレに背を向けている。

そのイルカ先生の口から呻き声が漏れていた。

「イルカ先生どうしたの?大丈夫?」

声を掛けても返事が無いから、心配になって強引にこちらを向かせた。

「うぅぅ、いた・・・い。」

「イ、イルカ先生っ!何が痛いの!?」

こちらを向いたイルカ先生は、体を丸めてお腹辺りを手で押さえて、眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべていた。

額には脂汗がびっしり。

「しっかりして!お腹?お腹が痛いの!?」

軽く肩を揺すって声を掛けると、うっすらイルカ先生の目が開いた。

その瞳は苦しそうにゆらゆら揺らめいてうっすら涙まで浮かべて、呼吸は荒い。

イルカ先生が苦しんでいる!イルカ先生がこんな表情をするなんて、これはよっぽどのことだ!

オレは頭が真っ白になって慌てふためいた。

「びょ、病院行きましょう!きゅきゅきゅ救急車ーーーっ!」

焦ってベッドから体を起こそうとしたら、イルカ先生に腕を掴まれた。

「だ、大丈夫・・・。」

弱弱しく微笑まれてサーっと血の気が引いた。

全然大丈夫そうじゃないっっ!

でも、と返そうとするオレを遮って、イルカ先生はハッキリと言った。

「ただの食べ過ぎ。」

「・・・食べ過ぎ?」

うんうん呻りながらイルカ先生は頷いた。

そういえば昨晩は寿司を食べに行ったのだ。

オレの奢りと言うと、イルカ先生は嬉しそうに寿司やら酒やらを次次と胃に仕舞い込んでいた。

なるほど。

あれだけ一遍に詰め込んだら胃もびっくりする。

「イルカ先生起きれる?トイレ行って吐いちゃおう。」

「やだ。」

即答だ。

「やだじゃないでしょ!吐いちゃったら楽になるから!」

「やだーっ!勿体無いっ!」

「も・・・!?」

勿体無いって・・・何が?

胃を空にしたら楽になるだろうに。

「折角のタダ酒とタダ寿司が!」

そこかよっ!!!

手を引いてイルカ先生を起こそうと試みるも、頑として動こうとしない。

「カカシ先生が記念にご馳走してくれたのにぃ・・・。」

そう。

実は昨日はお付き合いを始めて一ヶ月記念だったりする。

だからお祝いにちょっと贅沢な外食をしようということになったのだ。

イルカ先生のリクエストで回っていない寿司を食べに行った。

イルカ先生はそりゃーもう喜んでえらいハイテンションで。

酒もガバガバいっちゃって、店を出る頃には見事な酔っ払いになっていた。

結局オレがおんぶして連れ帰り、初のお泊りだというのにイルカ先生はとっとと眠ってしまったわけだ。

そして今に至る。

オレの心配を他所にイルカ先生は駄駄をこね続ける。

まだ酒が抜けていないようで、普段は決して取れない敬語も今は無くなっている。

イルカ先生は頑固だから折れないだろう、と諦めて洗面器を用意してベッドに戻った。

「イルカ先生。洗面器あるから吐きたくなったら言うんだよ?我慢しないで。分かった?」

「やだ。下から出るのは仕方ないけど上からは絶対いやだー!」

うんうん呻りながら勿体無いと繰り返すから失笑してしまった。

「イルカ先生ってば貧乏性だねぇ。あのくらいこれから幾らでも食べさせてあげるのに。強情っぱり。」

「だって安月給の中忍だもーん。うぅぅー・・・いーたーいぃ・・・。」

イルカ先生を胸の中に抱えて横になり、腹を撫でてやる。

「光り物も沢山食べてたもんね・・・食あたりじゃなきゃいいけど。」

イルカ先生はオレに体を摺り寄せて甘えてくる。

まだたった一ヶ月の付き合いで、甘えられるのは今夜が初めてだ。

苦しんでいるイルカ先生には悪いけど、普段とは全然違う態度が可愛くて、ちょっと嬉しくてニヤけてしまう。

「カカシせんせー痛いよぅー。」

痛い痛いと頻りに訴えてくるイルカ先生が可哀想だけど可愛くて。

オレにはどうにも出来ないから、「可哀想に」と慰めて一晩中ずっと抱き締めていた。

我が儘で困った酔っ払いだ。

可愛くて仕方がないけど。

 

 

 

 

 

  おわり

 

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半分実話。
こないだ一晩胃痛に苦しみながら浮かんだネタ〜。
上から出すのって勿体無・・・くない?無くないか。はは。
あぁ、貧乏性・・・(笑)。

最後までご覧頂きありがとうございました!

'07/11/9 葉月

 

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