『真っ赤な糸』
さよなら ああ
あなたが好きで絡めた想い 真っ赤な糸
ほどけて ああ
魔法が解けた 僕は独りで歩いていけるかな?
< 「真っ赤な糸」 Plastic Tree >
「さよなら。オレは遠くへ行くけれど、きっと強く生きて下さい。一人ででも・・・。」
オレは術をかけた。
最愛の人に。
何よりも大切な人に。
「イルカ・・・。またオレに何かしたでしょう?」
不機嫌な声で問われた。
当たり。
「もうしないでってお願いしたよね?」
眉間に皺を寄せながら、難しい顔をしたカカシがじっとこちらを見る。
「何でオレが嫌がることするの?」
オレは時折カカシに幻術をかけて、別れの場面を何度か見せている。
オレとカカシの別れの時。
嫌がっていることなんて重重承知の上だ。
「カカシが心配で・・・。」
オレ、うみのイルカと、はたけカカシは恋人同士だ。
互いを好きでいる。
オレはカカシのことが大好きで、カカシもオレのことを好きでいてくれてる。
一緒にいると楽しくて。毎日幸せで。
カカシのいない人生なんて考えられない。
カカシも同じ想いだろう。
でも、オレ達は忍。
危険と隣り合わせの毎日を送る忍。
他の職業に比べて、死が近過ぎる。
ある時、突然怖くなった。
カカシが任務から戻り、そのまま入院となったその時に・・・。
初めてカカシを失うことを考えた。
カカシに隠れて何度も泣いた。
その時を想像するだけで、胸が潰れてしまいそうに痛んだ。
苦しくて、痛くて、涙が溢れて止まらない。
怖くて堪らなかった。
イルカさえいれば他は何もいらない、イルカが生き甲斐、とカカシはよく口にする。
その言葉通り、任務以外の時間はほとんどオレに費やしている。
オレの隣にはいつでもカカシの笑顔があった。
宝物のように大切に扱い、愛情を注いでくれる。
それはオレだって同じ。
カカシさえいてくれれば何もいらないけど・・・。
でも、それを突然失ったとしたら?
想像だけでこんなにも辛いのに・・・オレは耐えられないと思った。
独りは、辛い。
カカシだって、きっと・・・。
オレを突然失ったら、カカシはどうなるんだろうと心配で。
だから。
どんな形でも、別れの時は何時か必ず訪れるのだと、分かっていて欲しいと思った。
喧嘩別れかもしれない。
死に別れかもしれない。
生きている限り、絶対に別れの時は来るのだから。
突然その時がやって来て、崩れ落ちないように、何度も幻を見せた。
オレが感じた痛みを突然知ることにならないように。
たとえ幻でも、何度も繰り返せば、実際その時が来た時の痛みは和らぐんじゃないかと思ったから。
覚悟があれば。
「何をそんなに怖がってるの?」
カカシはオレを抱き締めて言った。
そう。オレはずっと怖がってる。
今があまりにも幸せだから、カカシを失った後の自分が心配で。
オレを失った後のカカシが心配で。
「怖がらなくていいよ。イルカとオレは真っ赤な糸で結ばれてるんだから。」
イルカが見せた幻が現実になることなんてない、オレとイルカが別れるわけない。
もし、遠い遠い将来にイルカを失う時が訪れたら・・・。
カカシは強く言い切った。
「オレはイルカの望む様に生きるよ・・・。」
それが十年くらい前のこと。
あの時は若かった・・・。
カカシと付き合い始めて半年も経っていなかったし、全然分かってなかったのだ。
今もオレの隣で笑っているこの男のこと。
この男がそう簡単にオレを手放す訳がない。
そう簡単にくたばる訳がない。
この十年で学んだ。
そういえば、始まりは随分強引なものだった。
ストーカー紛いのこともされた気がする。
カカシに押しに押されて、何時の間にやら骨抜きにされてしまっていたのだった。
何故忘れていたんだろう、あの時のオレは。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
オレが心配するまでもなく、カカシがオレを独りにするはずがない。
オレから離れて独りになるはずがない。
オレを残していくはずがない。
残していくくらいなら、きっと一緒に連れていかれるんだろう。望むところだ。
カカシのオレへの執着は常識を遥かに超える。
そりゃ十年も一緒にいれば、揉め事も起こる。大きな喧嘩もした。
でも、カカシは今もオレの隣にいる。
どうやらカカシの言う「真っ赤な糸」とやらは、「切れる」とか「解ける」とかの言葉とは無縁らしい。
「そういえばよく妙な幻術かけてくれたよね〜。もう十年くらい経つ?」
オレの言った通りでしょ?とニコニコしながら印を結んだ。
「ほら、オレの赤い糸、まだまだイルカとつながってるよ。」
カカシは幻術でオレの小指と自分の小指を赤い糸でつないだ。
「・・・ほそっ!オレのだってつながってるよ!」
オレは対抗して、赤い毛糸で小指をつなげた。
するとカカシはムッとして、
「オレのが太いもんね!」
と、一楽のラーメンくらいの太さにした。
オレもムッとして、今度は極太のうどんくらいにしてやった。
それから張り合ってどんどん太くしていく内に、ついには真っ赤な荒縄で全身をグルグル巻きにされてしまった。
「オ、オレの勝ち・・・!」
身動きの取れなくなったオレに向かって、満面の笑みでカカシは言った。
「も、もう止めましょう・・・いい大人なんだから・・・。」
「そだね・・・。」
術を解いて暫く呼吸を整えた。
二人共夢中で張り合っていたから、息が上がってしまっている。
くだらない対抗心で白熱してしまった。
「二人一緒にならグルグル巻きも悪くないかな。ねぇ、カカシ先生?」
そう言いながらオレはカカシの首に腕を絡ませ、真っ赤な糸で二人の体をグルグル巻きにした。
抱き合う二人の体を、真っ赤な糸が幾重にも絡まる。
「うん。悪くないね。それよりも『先生』は止めてよ・・・。」
気恥ずかしいよ、とカカシは苦笑いを浮かべた。
この十年の間にオレはアカデミーの教師になった。
そしてカカシも明日から教師になる。
オレの担当だったナルト達の先生に。
「いいじゃないですか。『カカシ先生』!新鮮でしょ?」
先生を強調しながら言うと、
「まぁ、そういうプレイだと思えば・・・。ねぇ、イルカ先生?」
カカシはいやらしく微笑んでオレにキスをした。
「プレイって・・・。アンタ、エロオヤジみたいですよ。」
「いいもーん。エロオヤジなのはイルカ先生にだけだもーん。」
頬を膨らませるカカシが可愛くて。
「エロオヤジでも何でも、カカシだったら全部好き。」
キスを返しながら言った。
「オレだってイルカだったら何でも大好き。・・・ね、イルカ先生。いいことしよ?」
そう言って、カカシはオレの体をベッドに運んだ。
真っ白なシーツの上に、幻の真っ赤な糸が散らばる。
「ずっとこのままつながってるからね。」
カカシは握り合った手の小指と小指を真っ赤な糸でつないだ。
赤い糸でつながった二人の小指の上にキスを落とす。
「死が二人を別つまで?」
「うん。そうだね・・・。」
オレとカカシをつなぐ糸。
きっとそれは、鋼みたいに頑丈で、鮮やかな血の色みたいに真っ赤な糸なんだろう。
おわり
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またやっちゃった〜大好きなバンドの曲を聴いて妄想vvv
最後までご覧頂きありがとうございました!
'07/6/2 葉月