こいわずらい

 

 

 

 

 

「また三時間か・・・。」

枕元の時計を確認して、寝返りを打った。

「熱でも出るのかな?」

この数日体がおかしい。

いつも通りの時間に布団に入って眠るけれど、三時間したら不意に目が覚める。

それから暫く眠れなくて、夜が明ける前に少しだけ眠る。

眠れない間に考えることは一つ。

「・・・カカシ先生。」

今夜もまたカカシのことを思いながら布団の中で丸くなった。

溜息が零れる。

数回寝返りを打って、イルカは勢いよく起き上がった。

「あーもうっ!熱いお茶でも飲もう!」

どうせ布団の中に居ても眠れないのだ。

体を温めればまた眠気が訪れるかもしれない、そう思ってイルカは起き上がって台所へ向かった。

ヤカンの水が沸くのを待つ間も、油断するとカカシの顔が脳裏を過ぎる。

カカシのことを考えると余計に眠れない気がして、イルカは慌てて頭を振った。

「考えない考えない・・・!」

そうしてヤカンの中の水がコポコポと音を立て始めた頃、玄関の方から物音が聞こえた。

控えめなノックに聞こえたような気がしたけれど。

こんな夜半に連絡も無く訪ねて来る相手が思い浮かばなかったから、気の所為だと思った。

緊急の用件ならもっと分かりやすく訪ねて来るはずだから。

火を止めようと手を伸ばした時、今度は確かに聞こえた。

遠慮がちなノックと自分を呼ぶ声。

「・・・イルカ先生?」

カカシの声だった。

「カ、カシ・・・先生!?」

驚いた。心臓が飛び出るかと思うくらい驚いて、その瞬間焦った。

何でカカシがこんな時間に自分の家に!?

気の所為だと思ったノックも聞き間違いじゃなかった。

カカシがドアの前で待ってる。

早く扉を開けないければ。これ以上待たせてはいけない。

寝巻きの上から一枚羽織り、玄関へ急いだ。

扉を開けると本当にカカシがそこに居た。

「こんばんは。夜遅くにすみません。」

「いえ・・・起きてたから平気ですけど、どうかされたんですか?」

平静を装って言葉を交わすけれど、心臓がバクバク煩い。

どうしてカカシはここに居るんだろう。

「その、眠れなくて・・・イルカ先生起きてる気配がしたから、思わずノックしちゃいました。」

眠れなくて。

カカシも自分と同じで眠れないのだと言う。

だから、カカシをお茶に誘った。

「カカシ先生、良かったら上がって下さい。オレも眠れなくて今お茶でも飲もうとお湯・・・あっ!ヤカン!」

火にかけっぱなしのヤカンを思い出し、慌ててカカシを引き入れて台所へ走った。

ヤカンは湯気を噴出しながらシュンシュンと音を立てていた。

「直ぐお茶お持ちしますから適当に座って下さい!」

玄関で立ち尽くすカカシに声を掛けて、大急ぎでお茶の用意をした。

勢いで部屋に上げてしまったけれど、迷惑ではなかったのだろうか。

急に心配になって、カカシが部屋に居るということで緊張して、さっきよりも更に心臓が騒ぎ出す。

大きく深呼吸をして、カカシの待つ居間へ戻った。

「お待たせしました。熱いですから気をつけて下さいね。」

カカシの前に湯のみを置いて、向かいに腰掛ける。

暫く無言でお茶を啜った。

先に口を開いたのはカカシ。

「イルカ先生も・・・眠れないの?」

真っ直ぐに見詰められてそう問われる。

カカシと視線が絡まって、頬に熱が集まるのを感じた。

「えぇ。ここ何日か寝ても数時間で目が覚めてしまうんですよ。毎晩その繰り返しで・・・。」

視線を湯のみに落としてそう答えた。

「オレと一緒ですね。オレも眠いのに勝手に目が覚めちゃって。目が覚めたらイルカ先生のことばかり考えちゃって。」

視線を上げたらカカシのはにかんだ笑顔があった。

「イルカ先生が恋しくて・・・。」

そんなことを言われて、一瞬で顔が火照る。

噴き出しそうなくらいの熱が顔に集まるのが分かった。

「オ、オレもカカシ先生のことばっかり考えちゃって、そしたら余計に眠れなくなって・・・。」

「ほんと?」

「はい。その、それで、毎日寝不足気味で・・・。」

「そうなんだ・・・。」

頬を薄っすら染めたカカシが嬉しそうに笑った。

「ねぇ、イルカ先生。それって何時から?」

「えっと、3日・・・くらい前からですかね?」

そう答えると、カカシはクスクスと小さく笑い出した。

「イルカ先生オレも同じ。それってお付き合いを始めた日じゃない?」

「え?・・・あ!ほんとだ!」

言われて気が付いた。

カカシと恋人としての付き合いが始まってから毎晩こんな夜が訪れる。

カカシのことを考えながら眠りに就いても、数時間で勝手に目が覚めてしまう。

眠りたいのに何故だか目が冴えて、カカシのことばかりが頭に浮かんで眠れない。

付き合いが始まったことで、神経は高揚しっぱなしで気が昂って。

何だかずっと夢心地で、夢じゃないのかと疑うことも多くて。

早く夜が明けて欲しくて。

早く朝が来て欲しくて。

出来たばかりの恋人が、カカシが恋しくて。

「オレも・・・カカシ先生が恋しかったです。朝が待ち遠しくて、早く逢いたくて・・・。」

カカシが優しく笑う。

「嬉しい。これって恋煩い?」

「そうですね、きっと。」

顔を合わせてクスクスと笑った。

「ねぇ、イルカ先生。オレが寝かし付けてあげるから、一緒に寝よ?」

カカシに甘く誘われて、一つの布団に入った。

電気を消して布団に入ると、

「おやすみのキスしていい?」

そう言われて、軽いキスを交わした。

付き合い始めてから初めてのキス。

「今日は寝不足だから何もしないけど、次はおとなしく寝ませんからね。」

そう宣言されて、イルカの心臓はまたバクバク騒ぎ出して、頬が熱くなった。

電気を消した後で良かった・・・。イルカは心からそう思う。

「あの、イルカ先生が嫌じゃなかったら・・・でいいんですけど・・・。」

イルカが返事に困って黙っていると、カカシの不安そうな声が届いた。

黙っていたのが悪かったらしく、イルカは嫌がっているんだと思ったようだ。

恋人同士なんだからそんなに気を遣わなくても、と思うけど、イルカの気持ちを優先しようとしてくれているのが嬉しい。

「嫌、じゃないです。嬉しいです・・・。」

小さく口にすると、またカァっと顔が熱くなる。

本当に電気を消した後で良かった。

みっともないくらい真っ赤になっているであろう顔をカカシに見られずに済んだから。

「ありがと、イルカ先生。大好きですよ。」

そう言われて優しいキスをくれた。

それから布団の中で向かい合って横になり、眠るまで色んなことを喋った。

時折、思い出したようにキスを交わして。

「それでね、その時オレが持ってた・・・カカシ先生?」

カカシからの相槌が急に途切れたと思ったら、静かな寝息が耳に届いた。

どうやらイルカの話を聞いている内に眠ってしまったようだ。

「カカシ先生ったら!オレのこと寝かせてくれるって言ったくせに・・・。」

寝かし付ける前に自分が先に眠ってしまうなんて。

そう思ったけれど、隣で穏やかに眠るカカシが妙に愛しくなって、そっと頬に口付けて目を閉じた。

「おやすみなさい。カカシ先生。」

身を寄せながらそう呟くと、ゴソゴソと身じろぎをしたカカシの腕の中へ抱え込まれた。

「イルカせんせ・・・。」

意識の無いカカシに名を呼ばれ、どうしようもなく暖かな気持ちが溢れる。

夢の中でもカカシは自分を想ってくれているのだろうか。

イルカはカカシの腕の中で幸せを噛み締めた。

きっと今夜は朝までぐっすり眠れるだろう。

 

 

 

 

 

おわり

 

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恋人同士なのにお互いを想って恋煩い、とかいいよな〜と妄想v
好きな人と一緒だったらきっとよく眠れますよね〜寒い冬は特に。
ご覧頂きありがとうございました〜!

'08/2/5 葉月

 

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