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<カカシ>
「イルカ先生。今晩のご予定は?」
夕方の受付。報告書を手にイルカ先生の前に立つ。
顔が隠れてるキャラで良かった・・・。きっと不安と期待が表情に出ているはず。
イルカ先生はしばらくじっとオレを見た後、少し頬を赤らめた。気の所為かな?
「・・・今日はこの仕事で終わりです。飲みにでも行きますか?」
「やった!行きましょー!いつもの店でいい?」
「美味しいお酒があるんで今日は家で飲みませんか?」
「じゃ、オレの家でいい?ご飯用意して待ってますね〜。」
「わかりました。8時過ぎには伺えると思いますので・・・。肴はオレが用意しますね。」
楽しみにしてます、と受付を後にした。
今し方受付で行われたやり取りも、最近では珍しいことではなくなっていた。
始まりはイルカ先生からの誘いだった。
最近白状されたのだが、ナルトの様子を知りたくてオレに探りを入れようと連れ出したのだと。
イルカ先生は鼻の傷をポリポリ掻きながら照れ臭そうに言った。
ナルトを切っ掛けに知り合い、ナルトを切っ掛けに距離を縮めた。
ナルト様様だ。
オレはイルカ先生が好きだった。
少しずつ少しずつ好きになって、同じ時間を過ごす毎に気持ちが膨れる。
イルカ先生もオレを好きでいてくれてると思う。
オレの「好き」とは種類が違うかもしれないけど・・・。
だって、普通は好きでない相手と頻繁に飲みに行ったりしない・・・よな?
都合が合えばよく飲みにも行くし、酒を持ち寄って互いの家で飲み明かすこともある。
飲み過ぎて歩けなくなって、一つの布団に寄り添って朝を迎えたことだってあった。
もう少し距離を近づけたいけど、拒否されて今の関係が崩れることに怯え、今の状態に甘んじていた。
でも今日は誕生日だから。
誕生日を共に過ごせるから。
少し踏み出してみようかな。
―イルカ先生もオレと同じ「好き」になってくれたらいいのに。
「今晩は。はい、これ。ワインです。お好きですか?」
イルカ先生はキレイなラベルの付いた瓶を寄越して言った。
「ワインあんまり飲んだことないけど好きですよ。いつも日本酒ばっかりですもんね。」
ありがとうございます、と顔を上げると、イルカ先生はニッコリ笑った。
あぁ、ほんとに好きだなぁ。イルカ先生のこの笑顔。
「良かった!試飲して中中美味しかったので。カカシ先生と一緒に飲みたいなーと思って。」
イルカ先生は偶にこういう勘違いしてしまうような言葉を口にする。
だからオレは、勝手に期待して勝手に落ち込んだりするんだ。
軽く食事を取って酒宴を始めた。
イルカ先生の持って来てくれたワインと肴を前に卓袱台を囲む。
テレビから流れる音楽に浸り、下らない世間話に笑い合い、最近のナルトの様子を語り。
話題は尽きることなく時間が過ぎる。
何でもないそんな時間が矢鱈と嬉しかった。
誕生日にイルカ先生が隣に居てくれるという現実が嬉しかった。
イルカ先生の持って来てくれたワインと、家にあった日本酒を半分ほど空けたところで、イルカ先生が小さく欠伸をした。
「イルカ先生?眠い?」
「あ、すみません・・・。最近寝不足で・・・。」
言いながらも欠伸を噛み殺す。
「ちょっと横にならせてもらっていいですか?・・・すみません。」
「待ってイルカ先生!はい、枕。」
座布団を半分に折って、畳と頭の間に差し入れてあげた。
イルカ先生は座布団に顔を埋めて、気持ちよさそうに一息吐いた。
今なら。
今ならきっと―。
もし拒否されても「酔っ払いの戯言でした」と気まずくならなくて済むかもしれない。
イルカ先生は気付かなかった振りをしてくれるかもしれない。
何て計算高いオレ。
臆病なオレ。
イルカ先生の髪紐を解き、髪を梳きながら遠慮がちに口にした。
「ねぇ、イルカ先生・・・実はオレ今日誕生日なんですよ。プレゼントにイルカ先生のキスが欲しい、なぁ・・・なぁ〜んて。」
イルカ先生の目はまだ閉じたまま。
少しも動かない。
「あの、・・・ほっぺ・・・とかでも・・・いいんです、けど・・・。」
語尾がうにゃうにゃと潰れてしまった。
イルカ先生はまだ起きない。目もまだ開かない。
テレビから流れ出る音と、自分の鼓動が耳の奥で響いて煩い。
―イルカせんせー!何とか言って!
あぁ・・・沈黙が痛い・・・。
長い沈黙の後、イルカ先生はゆっくり瞼を持ち上げた。
「・・・知ってました。」
「え!?」
「ラベル見てみて下さい。・・・アナタの生まれた年に作られたワインなんですよ。」
イルカ先生は眠そうに目を擦り、体を起こしながら言った。
「先日任務で里を離れた際に偶然見付けて。プレゼントに差し上げようと買っておいたんです。」
「あ!ほんとだ!早く言ってくれたらもっと大事に飲んだのに!」
・・・ちょっと待て!
オレの誕生日を知ってた。
オレの生まれた年のワインを用意してくれてた。
オレの誕生日に。
これって!これって・・・!!!
「だって、アナタが今日どういうつもりで誘ってくれたのか分からなかったし・・・。」
教えたわけでもないのに他人が自分の誕生日を知ってたら気持ち悪くないですか?
イルカ先生はオレの頬に手を添えてそう言った。
酒の所為なのか、そうではないのか。真っ赤な顔をしたイルカ先生が近付いて・・・。
「お誕生日おめでとうございます。」
頬にキスされた。
小さいキスを何度も。何度も。
「い、イル、イルカ先生・・・!!」
肩に重みを感じてやっとぶっ飛んでた意識が戻った。
今のって夢じゃないよね!?
「すみません・・・もう限界、ねむ・・・また、明日・・・ゆっく・・・り・・・。」
ずるずるとオレに凭れ掛かって意識を手放そうとするイルカ先生をぎゅっと抱きしめた。
腕の中にある少し高くなった体温が心地よくて。愛しくて。
嬉しい!嬉しい!!嬉し過ぎてもう死んでしまいそう!!!
「ありがとう。イルカ先生、好き。大好き。」
そっと耳元で告白した。
静かに寝息を立て始めたイルカ先生を引き寄せ、唇と唇が触れる少し手前で動きを止める。
「・・・こっちは意識がある時の方がいいかな。」
そう自分に言い聞かせて、頬に一つキスを落とした。
おわり
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カカシ先生お誕生日おめでとーーー(≧▽≦)
イルカ先生視点のお話もあるので後日v
NARUTOに(というかカカシ先生に)はまって初めて迎えるカカシ先生の誕生日vvv
いや〜めでたい♪めでたい♪
しかし少女マンガのようで尻が痒いです・・・(笑)。
ほんと夢見がちな私。はは。
拍手ありがとうございました〜〜〜!
'06/9/6 葉月