2/14
「いいなぁ・・・。」
小さく呟いた声を聞き逃さなかった。
テレビから流れる聞き覚えのあるメロディー。
夕飯の支度中だったオレは扉から少し顔を出し、姿見越しに表情を盗み見た。
カカシ先生は頬を赤く染め、夢見心地な瞳でテレビに見入っていた。
―夢見すぎ・・・。
2/14バレンタインデー当日。
カカシ先生の呟きを聞いてから一週間が経っていた。
街はバレンタイン一色で、どこを見てもチョコレート、チョコレート、チョコ・・・。
ピンクのオーラが見えてきそうだ。
いや、実際ピンクのディスプレイが至る所で目に入り、視覚が麻痺して来た気がする・・・。
早く買い物を済ませて帰らなきゃ、と足を進める。
ふと、店先ではしゃぐ少女達を微笑ましく思い、無意識に口角を上げる自分に気が付いた。
去年の自分は、そんな感情を持っていなかった。
恋人も好きな人もいないオレには関係のないイベントだったから。
元々イベント事に関心を持たない性質だったので、馬鹿馬鹿しい風習だ、とどこか冷然と見ていた。
でも。
今年は違う。
大切な人と過ごす心地良い時間がもうすぐやって来る。
毎年早足で通り過ぎていた一日も、好きな人がいるだけでキラキラして見える。
あの人はイベント好きだから、きっと今日も楽しい日になる。
きっと自分が幸せだから、あの少女達の心境を微笑ましく思えるのだろう。
きっと今の自分と似ているから。
少し胸が温かくなった気がした。
浮き立った空気が流れる街中を通り抜け、帰路を急いだ。
今日はカカシ先生が訪ねて来る。
オレと幸せな時間を過ごす為に。
「はい。これどうぞ。甘さ控えめな物を選びましたので食べて下さいね。」
食後キレイにラッピングされた小さな箱をカカシ先生に渡した。
「チョコですか!?うっわ〜〜〜嬉しい!ありがとうございます!」
頬を紅潮させ、足をバタつかせながら喜びの声を上げる。
箱を大切そうに握り、キャーキャー笑声を上げるカカシ先生は、里の誇る上忍「はたけカカシ」にはとても見えない。
―子供みたい。可愛いなぁ。
早くもう一つのプレゼントをあげよう。きっと真っ赤になって驚くなこの人。
「これはオマケです。」
隠し持っていたポッキーを取り出し、一本咥えて顔を寄せる。
案の定カカシ先生はピタっと硬直して顔を真っ赤にさせた。
「早く」と先端をカカシ先生の口元に運んでやると、怖ず怖ずと口を進めて来た。
端整な顔が近付いて来る。伏せられた瞳を縁取る睫毛が揺れてる。
チュ。
チュ、チュ、と音を立てて何度も口付けた。
「・・・・・・聞いてたんですか?」
口付けの合間に怪訝な表情をしながらカカシ先生が呟いた。
「いえ、聞・こ・え・たんですよ。どうですか?感想は?」
「・・・照れます〜。・・・でも嬉しいです!」
お願いしてもきっとイルカ先生恥ずかしがるだろうなって思ってたから、とオレの手を握りニッコリ笑った。
目論見は成功だ。最愛の人が最高の笑顔を見せてくれた。
「恥ずかしいですけど、それ以上に好きな人の笑顔を見たいじゃないですか。」
カカシ先生いつも仰ってるでしょ?『イルカ先生の笑顔が見たいから』って。オレも一緒なんです。カカシ先生の笑顔が見たいんですよ。
今度はオレが真っ赤になりながら想いを告げた。
あぁ、恥ずかしいっ!!!まぁ、今日は愛を告げる日だからな・・・。こんな空気に酔い痴れてもよしということで!
「イルカ先生っっ!今夜は寝かせませんっ!」
両手をガシっと握り込まれて、鼻息荒く宣言されてしまった。
「程程に睡眠はとりましょうね。」
はい、ともう一本ポッキーを取り出し、両端から顔近付ける。
丁度その時、テレビから『あなたもわたしも〜♪』とCMが流れ、二人共ぷっと噴き出した。
翌朝。
カカシ先生からバカでかいハート形のチョコを頂いてしまった。イルカのイラスト付で手作りらしい。
まさかカカシ先生も用意しているとは思わず、驚き半分、喜び半分で受け取った。
でも、カカシ先生は受け取る立場なんですよ、と伝えると
「だって好きな人にチョコあげて愛を告げる日なんでしょ?」
なんて言葉をサラっと口にするものだから、オレはまた幸せに酔い痴れるんだ。
「ありがとうございます。大好きですよ。」
チュと軽く口付けた。
―しかし、気持ちは嬉しいけど、これをバリバリ食べるのに抵抗あるのはオレだけ・・・?
おわり
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拍手ありがとうございます〜〜〜(≧▽≦)
ちょっと気の早いバレンタイン小話vvv
話しの中のCMは、一個古いバージョンの「あなたもわたしも〜♪」のあれです。
物陰に隠れて女の子と男の子がポリポリ食べてくやつ。
青春です(笑)。
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
'06/2/4 葉月
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一応バレンタインネタということで作ってみました〜!
しばらく拍手から行けるように置いてました。
もう2月も終わりなのでこっちに移動♪
ご覧下さった皆様ありがとうございました〜vvv
'06/2/28