'07/5/26 (後)
浴室で愛し合って布団に戻った。
裸のまま二人一緒に一つの布団に入る。
風呂から上がってすっかり熱も冷めて二人共目が冴えてしまったから、そのまま寝転んで話をしていた。
色んな話をした。
幼い頃の話。
出会った頃の話。
思い出話に花を咲かせる。
「懐かしい・・・。」
イルカが目を閉じて欠伸をしながら言った。
「眠くなって来た?」
問うとイルカは小さく頷いた。
幸せそうに口元に可愛い笑みを浮かべて。
あんまりにも優しく笑うから、オレの心臓は急に動きを速める。
ドキドキして。胸がぎゅうぎゅう締め付けられて。涙が出そうに幸せで。
愛しさが膨れ上がる。
体中が愛しい気持ちで満たされる。
じわじわ沁みこんで体中に広がり亘る。
今にも溢れ出そうだ。
自分の好きな人が隣にいて、自分のことを好きでいてくれて、幸せそうに笑っていて。
自然と頬が緩む。
改めてこの人のことが好きだと思った。心の底から。
眠りを促すように指先で頬を撫でてやると、イルカはオレの指にスリスリと顔を寄せた。
そんな仕草も、何もかもが可愛くて愛おしい。
気持ちが昂って、つい声に出た。
「愛してる。」
口の中で小さく呟いたつもりだったけど、イルカの耳にも届いてしまったようだ。
イルカはゆっくり目を開けて、そのままじっとオレを見た。
続いて頬を赤く染める。
「ご、ごめん。変なこと言った?」
イルカが瞬きもせずにじっと真っ赤な顔で見詰めるから、何だか居心地が悪くて。
「カカシさん・・・今凄くいやらしい顔してた・・・。」
頬を緩ませたままイルカを見ていたらしい。
慌てて頬を押さえて、ごめんと謝った。
折角の良い雰囲気を壊したくなくて焦る。
「あ、違います!いやらしいじゃなくて、何かその・・・色っぽいと言うか・・・。」
本当に男前だなぁと思って。
イルカは視線を逸らせて言った。顔は益益真っ赤だ。
「突然そんなこと言われたら照れますよ・・・。」
良かった。嫌がってるわけじゃないんだ。照れてるんだ。
それからゆっくりとオレの手に自分の手を重ねる。
イルカの手はいつもより少し暖かい気がした。
「オレだってアナタのことを愛してます・・・。今日は本当にありがとうございました。」
オレの手の平に唇を押し付けて言った。
まるで眩しい物でも見るように目を細めて、オレに笑い掛ける。
「イルカさん、誕生日おめでとう。」
オレはイルカの手を握り締め、改めて祝いの言葉を伝えた。
大切なイルカの誕生日を傍でお祝いで出来て嬉しい。
オレの隣にいてくれてありがとう。
オレを愛してくれてありがとう。
生まれて来てくれてありがとう。
ずっとずっと、この日をイルカの隣で祝いたい。
それからまた暫く話をした。
夜が明けるまで布団の中で話をしていた。
空が白んで来た頃に漸く眠りに着いたから、フロントからの電話でやっと目覚めた。
朝食は食いっぱぐれるしチェックアウトの時間も過ぎてしまうし。
バタバタと準備をして旅館を飛び出して、随分慌しい帰りになってしまった。
でも、そのお蔭でイルカはお揃いのTシャツもすんなり着てくれた。
昨日の具合じゃ素直に受け取ってくれるかと、心配だったからホッとした。
車中でそれに気が付いてショックを受けてたけど。
「ペ、ペアルック!?」
何度もオレのと見比べて、
「道理で受付でジロジロ見られてると思った・・・!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがってたけど、怒ったりはしなかった。
オレを気遣ってくれたんだろう。
旅の恥は掻き捨て、と自分に言い聞かせるみたいにブツブツ言ってたけど。
イルカの家に到着したのは昼をとうに過ぎた時間。
折角だから観光でもしたかったけど、二人共かなりの寝不足だったのでイルカの家に直行した。
イルカを送ったら今日はこのまま帰ろうと思っていたけど。
「あの、良かったら少し上がっていきませんか・・・?もう少し一緒にいたい。」
オレのシャツの裾を握りながら遠慮がちにイルカが強請る。
恋人のこんな可愛らしいお強請りを拒めるわけがない。
「喜んで!」
オレはニッコリ笑い掛けて快諾した。
イルカも嬉しそうに笑う。
イルカの部屋で休日の残った時間をのんびり過ごした。
くっついて昼寝をしたり、ゴロゴロしながらテレビを見たり。
夕食の後は深いキスを交わして、どちらともなく寝室へと足を運んだ。
ベッドの上で愛し合っている内に日はとっぷり暮れてしまったので、結局一晩泊まることになった。
眠りに落ちる寸前は、朝早めに出て一度家に戻って車を置いて着替えて、と考えていたけど。
「カカシさん!起きて!遅刻っ!遅刻しますっ!カカシさんってば!」
イルカの焦った声に揺さ振り起こされた。
枕元の時計を見ると、もう家に戻る時間は無かったから、
「着替えに戻ったらどうせ遅刻だし、もうちょっと寝ます・・・。」
諦めて布団の中に潜り込んだけど、勢い良く捲り上げられて力任せに引っ張って起こされた。
「いやーん。イルカのエッチv」
胸元を両手で覆いながらおどけて言うと、軽く頭をはたかれた。
「バカ!休み明けから遅刻なんてダメです!そんなだらしない!カバンはオレのを貸してあげますから!」
そう言って押し付けられたのは、クリーニング店の名前が印刷されたビニールに包まれた物。
去年のイルカの誕生日に着ていたスーツ一式だ。
雨でずぶ濡れになったからイルカが干してくれて、そのまま忘れて帰ったらしい。
そういえば、あの日の帰りはイルカの服やら靴やら、何もかもを借りて帰ったんだった。
借りた服のことも忘れてた。何時でも返せるし、とキレイさっぱり忘れていた。
洗濯はした・・・はず。どこに直したっけなぁ・・・。
置いて帰ったスーツのことなんてすっかり忘れて、この一年少しも思い出さなかった。
イルカはそれを態態クリーニングに出して、大事に仕舞っていてくれた。
オレが何も言わないから、今日みたいに思いも寄らず必要になった時、役立つだろうと預かってくれていたそうだ。
何て良く出来た恋人なんだろう。
急いで支度をして、ネクタイを締めながらにやついてしまった。
何だか凄く嬉しくて。
大切にされてるなぁ、オレ。このスーツも。
「・・・何ですかニヤニヤして・・・気持ち悪い。」
「いやぁ・・・オレには勿体無いくらい出来た恋人だなぁって。幸せを噛み締めてたの。」
そう言ってにやけ続けるオレの手を勢い良く握った。
「アンタに良く思われたいからですよ。・・・ほら!遅刻しますよ!」
照れ臭そうに言い捨てて駆け出す。
後ろから見ると、耳の裏まで赤く染めてる。
イルカに手を引かれて走りながら、オレはイルカにだけ届く声で言った。
「イルカさん!愛してるよ!」
「オレも!」
イルカは少し振り返って、満面の笑みを浮かべてそう言った。
頬をピンクにして、少し照れながらの笑顔。
オレはその笑顔に見惚れた所為で、危うく素っ転びそうになってしまった。
イルカが引っ張って助けてくれたけど。
「ねぇ!来年の誕生日はどこに行こっか?」
当たり前みたいに、来年の誕生日もイルカの隣にいることを宣言した。
「ハワイ!・・・ってのは冗談で、アンタが一緒にいてくれるならどこだって!」
イルカもそれを当たり前みたいに受け入れてくれる。
「その前にカカシさんの誕生日があるじゃないですか!」
今回みたいに喧嘩したくないから特別なことはしませんよ、と笑って付け加えた。
そうして、オレとイルカは駅まで手をつないだまま走った。
おわり
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イルカ先生お誕生日おめでとーーー(≧▽≦)
今年も誕生日を大幅に過ぎましたが・・・や、やっと終われた!
昨年に続き今年もリーマンvこうなったら毎年リーマンじゃ〜(笑)。
最後までご覧頂きありがとうございました!
'07/7/1 葉月