'07/3/14

 

 

 

 

 

「何でこんなことになっちゃったんだろ・・・。」

カカシは寝返りを打ちながら呟いた。

溜息が零れる。

ここ一ヶ月、同じことを繰り返していた。

夜ベッドに入るが、ずっと一つのことを考え続けて眠れない毎日。

一ヶ月前の夜を悔やんで悔やんで、時間があればそのことばかりを考えてしまう。

最低な終わらせ方をしてしまったあの夜。

好きだと伝えて玉砕していた方が今より余っ程良かった。

バレンタインデーから一ヶ月、イルカとは一度も顔を合わせていなかった。

何の解決策も見出せぬままもう一ヶ月になる。

これが幸いなのかは分からないが、部署もフロアも違うから会社で逢うことは滅多に無い。

イルカに逢いたいと思うけれど、どんな顔をして逢えばいいのか。

拒否されるのが怖くて何の連絡も出来なかった。一ヶ月間たったの一度も。

こんなことになったのは自分の所為だとは分かっている。

全部自分が悪いことも分かっている。

日付が変われば3月14日。

ホワイトデーだ。

あの夜からもう一ヶ月が経つ。

 

 

 

 

 

ホワイトデーの昼過ぎ、思いがけずイルカの姿を目にした。

会社のエレベーターで乗り合わせたのだ。

カカシが奥の隅で動き出すのを待っていると、最後に乗り込んで来たのがイルカだった。

瞬間、目が離せなくなった。

一瞬目が合い、すぐ逸らされたけれど、向こうもこちらに気付いた。

イルカは押しボタンの前に立って目を伏せた。

カカシからは背中しか見えないが、後姿からでも緊張しているのが分かる。

分かってはいるけれど、悪く思ったけれど、視線を逸らすことが出来ずにいた。

カカシとイルカはエレベーター内の端と端で互いを意識していた。

一歩踏み出して手を伸ばせば届く距離にいるのに。

・・・遠い。

カカシとイルカを隔てていた人間は次次といなくなり、到頭二人きりになる。

カカシはイルカを少しでも長く見ていたかったから降りれずにいた。

イルカは目的のフロアに止まっても動かなかった。

しんとしたエレベーター内にモーター音だけが響く。

ほんの数十秒のことだったけれど、とても長く感じた。

 

 

 

 

 

「ジロジロっ、見んなっ!」

突然イルカが大声を上げた。

ガツンと大きな音を立てながら非常停止ボタンを押して、振り返って間合いを詰める。

―殴られる。

そう思ったカカシは咄嗟に歯を食いしばってぎゅっと目を閉じた。

胸倉を強くつかまれて・・・。

予想した衝撃は無く、唇に柔らかい感触が残った。

乱暴に押し付けられたイルカの唇。

キスされた。

驚いて目を開く。

離れかけていたイルカの頭を抱いて引き寄せた。

「アンタが・・・!」

頭は突然の出来事に混乱中だったが、体の方は勝手に動いた。

口を開きかけるイルカを壁に押し付けてキスをした。

腰を抱いて、強く激しくイルカの唇を味わう。

イルカは苦しそうに喘ぎながら、途切れ途切れに言った。

「アンタが、あんなことするから・・・うっかり・・・好きになっちまったじゃねぇか!」

最後の方は悔しそうにカカシを睨みつけながら声を荒げて。

「ごめん。」

カカシは夢中でイルカの唇を貪った。

舌を入れて。逃げるイルカの舌を絡めて。歯の裏まで舐める。

息をするのも忘れて。

夢中で求めた。

 

 

 

 

 

思う存分イルカの唇を味わって、腰を抱いていた手でするりと尻を撫でると、力の入りきらない拳で殴られた。

「か、勝手に・・・っ!人のケツ!触んなっ!」

整わない呼吸の合間に抗議の声を上げるイルカ。

カカシを精一杯睨むけれど、その目尻は赤く染まり、涙が溜まって可愛くて堪らない。

『勝手に』じゃなかったらいいんだ。そう口に出かけたけど、大人しく謝っておいた。

「痛いなぁ・・・ごめんね。」

「ニヤニヤすんなっ!」

「だって・・・。ねぇ、これ夢?夢じゃないよね?」

「知らん!離れろよっ!」

真っ赤な顔をしてカカシを押し退けようとするイルカに頬ずりをしていると、

『何かありましたか?』

インターホンからの声に邪魔された。

「すみません。もう大丈夫ですから動かして下さい。」

小さく揺れて動き出したエレベーターの中で、横に並んで手をつないだ。

イルカは頬を染めたまま俯いていた。

「カメラ付いてなくて良かったね。」

そう言うとイルカは更に赤くなった。

次に扉が開くまでの数十秒間、カカシはイルカの手を強く握り、夢でないことを何度も確認した。

扉が開いてイルカがカカシから離れる。

振り返りもせずに出て行くイルカに声を掛けた。

「ねぇ!今夜家に来てよ!」

閉じかける扉を体で止めて続けた。

「来なかったら毎日定時に花束持って迎えに行くからね!」

そう笑い掛けて扉から離れる。

扉の間から見えたイルカの表情は真っ赤で、口をパクパクさせていた。

「な、何バカ言って・・・っ!ボケ!ドアホ!」

閉じた扉の向こうから、イルカの怒声が届いた。

相変わらず口が悪い。

動き出すエレベーターの中で、カカシは緩む頬を整えようと試みたけれど。

―それにしても・・・『うっかり好きになった』なんて言い方はないよなぁ・・・。

さっきのイルカを思い出すと、デレっとだらしなく頬は緩みっぱなしで。

夜にはきっと、膨れっ面で現われるであろうイルカのことを考えると、緩む頬は止められなかった。

さぁ、ご機嫌斜めでやって来るイルカを、どうやって迎え入れよう。

 

 

 

 

 

 おわり

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人間用のエレベーターに非常停止ボタンは付いてません。
荷物用には付いてるそうです。
むやみやたらに押してはいけません。
↑以前非常停止ボタンを調べた時にこう書いてたんだけど・・・うろ覚え(^-^;
そうらしいですよ。

拍手ありがとうございました〜vvv

'06/3/14 葉月

 

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